スマートフォンが一般に普及してから、人々の生活はさまざまなシーンで劇的に変化した。なかでも、スマホに内蔵されたカメラが及ぼした影響は大きい。
ガラケー時代からカメラ機能は搭載されていたが、スマホ時代になって内蔵カメラの性能が飛躍的に向上したため、これまで写真撮影とは縁がなかった人たちも日常的に写真を撮る習慣がついた。スマホを選ぶ際にカメラ性能の優劣で選ぶという方も少なくないし、最新スマホになるとプロのカメラマンをもうならせる、高機能なカメラが搭載されたモデルも珍しいものではなくなっている。
そんなスマホのカメラの陰で、苦境に喘いでいるのがデジカメ市場だ。デジタル一眼レフカメラなどにはまだまだファンも多いが、コンパクトデジタルカメラを主とするデジカメ市場は、2010年から2019年までの10年間で出荷台数が約8分の1に大幅減少。業界大手のオリンパスでさえ、カメラを含む映像事業を分社化・譲渡の方針を発表していることからも、その打撃の大きさは並大抵のものではないことが伺えるだろう。
とはいえ、いまだに家電量販店にはコンパクトデジカメが陳列されているし、愛用しているユーザーはまだまだいるのではないだろうか。そこで、今回は『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』(講談社現代新書)、『ソニー復興の劇薬』(KADOKAWA)といった著書を持つフリージャーナリスト・西田宗千佳氏に、デジカメ市場の過去から現状、未来について話を聞いた。
「デジカメが世に出てきたのは1990年代の半ばでした。どの商品を最初とするかで話が変わってきますが、コンパクトデジカメ黎明期に大ヒットしたカシオの『QV-10』は、1994年に発売されています。デジカメの強みはとてもシンプルで、フィルムが要らないという点でした」(西田氏)
デジカメが登場したその当時、写真を撮るのにフィルムが必要なくなったという点は革新的だったが、肝心の画質は今ひとつだったという。しかし、時が経つにつれ技術も進歩し、2000年代に入るとデジカメの最盛期を迎える。
「2000年代の後半には、画質でいえばプロのカメラマンが使っていても問題ないスペックを備えるようになりました。もちろん、芸術的な表現をするときは色合いや質感などの兼ね合いで、フィルムを使ったほうが効果的な場合もありますが、総合的にデジカメは10年でフィルムカメラを凌駕する存在になってしまったんです」(西田氏)
フィルムよりも解像度も発色も良く、印刷の手間もかからず、何枚でも取り直しが可能というデジカメは、ほぼ“メリットしかない”存在だったといえよう。だが2000年代の中頃から、早くもコンパクトデジカメの衰退が始まったという。
「2000年代の中頃以降になると、コンパクトデジカメの存在意義は揺るぎ始めます。ご存知の通り、携帯電話にカメラが搭載されるようになり、わざわざデジカメを持ち歩かなくとも、日常のありとあらゆる場所で写真を撮影することが可能になったのです。
さらに言えば、写真を誰かに見せるにも、携帯電話のメールは便利でした。近年ではSNSにアップするのが主流となっています。そういった用途の場合、通信機能がついていたほうが圧倒的に便利なのはいうまでもありません。なにより携帯電話は多くのの方が持ち歩いていますので、携帯電話にカメラ機能が付いているのであれば、コンパクトデジカメを買う必要性を感じなくなっても当然でしょう。
ですからデジカメ登場からの約30年間を要約すると、1990年代半ばからの10年間で、デジカメがフィルムカメラを超え、2000年代半ばからの10年間で、ガラケーやスマホのカメラがコンパクトデジカメを超えてしまったということですね」(西田氏)