「郊外から都心へ」「一戸建てからマンションへ」
これが近年の流れだった。ところが、新型コロナウイルス拡大で、この流れが変わった。都心の「駅近マンション」から郊外の「戸建て」へと人気が移っているというのだ。本当だろうか。「都心・駅近」神話が崩れたのか。
リクルート住まいカンパニー(東京・港区)は5月、コロナの拡大が住まい探しにどんな影響を与えたかを調査した。コロナの拡大の前後での住宅を求める条件の大きな変化は「広さ重視派」が増加し、「駅距離重視派」を大きく上回ったことだ。
コロナ前の昨年12月調査と比較すると、「広さ派」の割合が52%と10ポイント増加したのに対し、「駅距離派」は30%と10ポイント減少した。12月の調査ではほぼ拮抗していたのに、「広さ派」が「駅距離派」に大差をつける結果となった。通勤時間では「徒歩・自転車で15分以内」の割合が28%と7ポイント減少し、「公共交通機関で60分以内・60分超」の割合が34%と10ポイントもアップした。それを反映して「一戸建て派」の割合が7ポイント増えて63%に高まった。
コロナ禍で消費者の住宅購入の意識が、都心の「駅近マンション」から郊外の「戸建て」へと、かつてとは真逆となったことを示している。テレワークの定着で都内に住む必要がなくなった、と考えている働き盛りの層が目立ってきたのかもしれない。
東京株式市場でパワービルダーと呼ばれる格安建売り住宅会社の株価が9月に入り急騰した。
ケイアイスター不動産は9月23日、一時、前営業日(9月18日)比64円(2%)高の2708円をつけ、年初来高値を更新した。オープンハウスは9月18日、前日比60円(1%)高の3895円をつけ、こちらも年初来高値をつけた。飯田グループホールディングスは9月15日、前日比56円(2%)高の2234円に上昇し、これまた年初来高値である。コロナによる在宅勤務などが戸建て需要を押し上げるとの期待から買いが集まった。
ケイアイスター不動産は埼玉や群馬など北関東を中心に比較的廉価の戸建て住宅を販売している。分譲住宅の契約金額はコロナ禍の4~6月も16%増だったが、8月は69%増と急伸した。21年3月期の連結業績は売上高が前期比8%増の1300億円、純利益は17%増の42億円を見込む。
オープンハウスは首都圏中心部で分譲住宅を販売。都心の狭小地を仕入れ、1つの現場当たり平均2棟を建築して販売するビジネスモデルだ。戸建ての契約件数はコロナ禍の4月は営業自粛の影響で4割減ったが5月は4割増に転じ、6月は5割増となった。20年9月期の連結純利益は前期比50%増の590億円と8期連続の最高益を見込む。
飯田グループホールディングスは分譲最大手。6社が13年に経営統合して発足した。低価格を売りにしている。戸建て住宅の販売が好調だったことから、4~9月期の期末配当(中間配当)を前期と同額の31円にする。従来予想は16円だった。4~9月期や年間の業績予想は公表していない。
首都圏の住宅市場はマンションが中心だったが、今後は戸建て住宅の購入希望者が増えるとみて、パワービルダーの建売住宅銘柄が買われた。不動産業界筋によると、関西圏では、こうしたはっきりした傾向は見られないという。
ニーズの変化はマンション発売戸数にも現れている。不動産経済研究所(東京・新宿区)がまとめた8月の首都圏(1都3県)の新築マンションの発売戸数は、前年同月比8.2%減の1669戸と2カ月ぶりに減少した。