新型コロナウイルスの感染拡大により、飲食店は営業休止や縮小を余儀なくされている。そのため、売上は下がり、閉店の危機に瀕している。有名店や老舗でも閉店を決めた店は多く、そうした店の閉店を惜しむ報道なども頻繁になされている。
コロナで苦しい飲食業界を尻目に、業績を大幅に拡大させているのがスマホアプリを活用したデリバリーサービス「ウーバーイーツ」だ。そのカバーエリアは急拡大しており、ニーズは高まるばかり。配達員を街で見かけることも珍しくなくなった。飲食店は慢性的な人手不足のため、配達で人手を奪われるデリバリーへの参入障壁は高かったが、ウーバーイーツなら配達員の確保に悩むことはない。
一方、その配達員は暇な時間をうまく活用してアルバイト感覚で働く。副業ブームも追い風に、順調に配達員を増やし、それに伴って売上も伸ばしてきた。店側も配達員を常駐させる必要がなく、配達の注文が入ったときだけ配達員を使えるので合理的なシステムではある。
しかし、ネックになるのは手数料だ。ウーバーイーツは飲食店側から代金の37.8パーセントの手数料を徴収している。これほどの高い手数料を徴収されたら、店が利益を出すのは難しい。当面は収支トントンで凌ぎ、コロナ後に再び稼ぐ。そんな青写真を描くこともできるが、いっこうにコロナが収束する兆しはみえない。
店側としては、利益を出すために値上げするしか術はないが、客はとたんに離れてしまう。板挟み状態にある飲食店は、当面の売上を確保するためにウーバーイーツを活用するが、同時に脱ウーバーイーツを模索してきた。利益を出せないのだから経営は回らなくなり、廃業する飲食店が相次ぐのも時間の問題だった。
街の飲食店が次々に廃業すれば、それは街のにぎわいにも影響する。中心市街地から飲食店が消滅するとの危機感が自治体を悩ませる。税収にも影響が及び、自治体の存亡にもつながる。ウーバーイーツは手軽で便利ではあるが、それは同時に飲食店を苦しめ、私たちが住む街を蝕む。
そのため、自治体のなかからウーバーイーツに対抗しようとする動きが出てきている。東京都三鷹市は、街の飲食店と利用者をマッチングする「デリバリー」サービスを開始した。苦境に陥る市内の飲食店を支援する目的で三鷹市が始めたサービスは「デリバリー三鷹」と呼ばれ、もはや公営ウーバーイーツともいえる事業だ。ただし、スマホやクレジットカードなどを持たない高齢者の利用を主眼においているので、電話での注文受け付けも可能。支払いは現金のみの対応となっている。三鷹市生活環境部生活経済課の担当者はこう話す。
「市内全域でデリバリー三鷹のサービスを開始したのは7月20日からですが、当初は個人経営の飲食店を支援することを主眼にしていました。しかし、コロナでアルバイト先がなくなって困窮している学生などに働いてもらうことにより、結果的に学生の金銭的な支援も兼ねることになりました」
ウーバーイーツは手軽に始められる副業としてもてはやされているが、その一方で就業中の事故・トラブルは自己責任。デリバリー三鷹はそうした部分にも配慮し、地元の警察署と連携。デリバリースタッフに交通安全講習を受講させるなど、安全対策を強化している。また、ウーバーイーツには低賃金労働との批判が絶えないが、デリバリー三鷹の配達員は時給1400円。それでいて、デリバリーを頼む飲食店は手数料も配達料も負担ゼロ。これらは、すべて事業者支援・困窮学生支援の名目で三鷹市が負担している。デリバリー三鷹を利用しているのは居酒屋や食堂のほか、パン屋、弁当屋など幅広く、市内35店舗にのぼる。