国の内外を問わず、昔から有名人のなかに発達障害の特性があると思われる人たちが存在した。近年では、自らそのことを公表している人も少しずつ増えている。発達障害であれば、有名人や成功者になれるというわけではないが、発達障害であることが必ずしもマイナスに作用するとは限らないということだ。もちろん、発達障害であることから生きづらさを抱えて苦しんでいる人たちのほうが圧倒的に多いことだろう。
その数、10人に1人と聞けば、通勤電車なら座席に座っている人のなかに1人。満員電車なら乗客のなかの少なくとも十数人程度が、発達障害もしくはその特性のある人かもしれない。身近なところでは、家庭なら親やいずれかのパートナー、子どもたち、親戚のなかに。学校なら先生や同級生が。会社では上司と部下、机を並べる同僚や先輩、後輩のなかに発達障害の人がいてもちっとも不思議ではないのだ。
以下は、『あなたの隣の発達障害』(小学館)の「はじめに」の部分の一部。著者は前回に引き続き、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授である本田秀夫医師(55)である。
「発達障害の特性のある人は、今も昔も、少なくとも人口の一割は存在すると考えられます。おそらく、この本を手に取った皆さんの直ぐそばにも、発達障害の特性のある人は複数いると思います。その多くは、素直で真面目で思いやりのある人たちですので、皆さんは気づいていないのかもしれません。
本書を読むうちに、「自分も発達障害かも」と思う人が出てくるでしょう。当たり前です。発達障害の特性が多少なりともあるという人は、たくさんおり、それが福祉などの特別な対応が必要なレベルまで至っているかどうかという差でしかないのです。また、同じ特性でも、環境やその人が属しているコミュニティの文化によって、発達障害と判断すべきケースもあれば、その必要がないケースもあります。
発達障害の人がストレスなく生きていきやすい環境は、すべての人にとって快適な環境だと思います。逆に発達障害の人を排除する社会は、一般の人にとっても、とても窮屈で息苦しいものです。発達障害の特性がある人も、周囲の人たちも、ともに満足感を覚えながら生きていける社会を築くために、本書が多少なりとも貢献できることを願っています」
前回に続き、本田秀夫医師に話を聞いた。
――先生の本を読んで、実際に私自身「自分も発達障害かも」と思いました。ADHDの特性にASDの特性も重複しているようです。今まで困ったことがなかったので気が付きませんでした。本田先生にも発達障害の特性があるとおっしゃっていますが、とてもそんなふうに見えない。先生はどんな特性をお持ちで、どのように対処されているのですか。
本田秀夫(以下、本田) 僕はASDの「こだわり」です。対人関係は技術で補っていますが、そんなに得意ではありません。空気を読んで仕事するというのはあまり好きじゃないので、これが正しいと思ったときに、それを曲げてまで人に合わせるのは嫌ですからね。自分でうつや不安症などの二次障害にならないようにしています。発達障害の特性は多かれ少なかれどんな人にも少しはあるものです。自分自身と周囲の人を一度チェックしてみるのもいいでしょう。