――会社で自分の部下や同僚が発達障害かもしれないと思ったら、どういうことに気をつければいいのですか。
本田 世の中の一割以上になんらかの発達障害の特性があるということは、会社ならひとつの部署に数人はいる計算になります。したがって、発達障害を理解することは、会社を円滑に運営することにも繋がると思います。
以下に、ADHD、ASD、LDの人の特徴をリストにしてあるので、まずそれを頭に入れてください。
【注意欠如・多動症(ADHD)の人の特徴】
・どうしても仕事をためてしまう
・どうしても時間が守れない
・頼まれごと、やるべきことを忘れてしまう
・「これがしたい」という衝動を抑えられない
・ものをよくなくす
・すぐに気が散る
・身体のどこかを連続的に動かしていることが多い
【自閉スペクトラム症(ASD)の人の特徴】
・興味や感情の共有など、人と心を通わせた会話がうまくできない
・非言語的なコミュニケーションができない(場の空気が読めない)
・人間関係に対する興味がない
・何かに異常なこだわりがある
・口答での指示が理解できない(聴覚より視覚に偏りがある)
・企画書が書けない
・すぐに仕事でテンパってしまう
・ひとつのことに集中すると、ほかのことができない
【学習障害(LD)の人の特徴】
・光、音、匂い、触覚などに過敏(光がまぶしくて辛い、ほかの人が気にならないわずかな匂いでも吐き気がする、特定の音が気になって苦痛を感じる)
・痛みや温度、健康に関する感覚には鈍感
本田 その上で、発達障害や発達障害ではないかと思われる人の周囲の人たちにお願いしたいのは、ただ文句や小言を言うのではなく、「この人はどんなことを考えているんだろう?」と想像してほしいのです。話を聞いてみる、よく観察してみるなどして、考え方や反応の仕方を知ることが大事です。それが自分の思考や考え方と違っても、否定したり、相手を説得するのではなく、「あー、そういうクセのある人なんだ」と理解してあげてほしいのです。
パワハラやモラハラは論外です。発達障害のある人の場合、あっという間に精神的に追い込まれてしまいます。発達障害の人には普通の人と同じようにできない業務がしばしば出てきます。そのときは、本人にできることとできないことをはっきりさせることです。「ほかの人はこれくらいできるのに」などとハッパをかけると、本人は余計に混乱してしまいます。人には誰でも得手不得手はあるので、そこそこやれるような職場の雰囲気をつくってあげてください。
――障害者雇用促進法で一定規模以上の会社には障害者の雇用義務があります。そのなかで、発達障害の人が注目されているといわれていますが、それはなぜですか。
本田 これは、自分が発達障害だとわかっている人と、わかっていない人で違うのですが、自分が発達障害だとわかっている人の場合、適材適所で十分に能力を発揮できるからです。ASDの人で大手電機メーカーのオペレーターに就職して、5年でチーフに取り立てられた人もいます。仕事が自分の得意な領域だったということもありますが、思ったことをズケズケ言う特性が、逆に周囲からは積極的な発言だと捉えられ、好意的に受け止めてもらえたことがプラスになったのです。
――障害者枠での就職だと給料が安いのではないですか。
本田「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、従業員が45.5人以上いる民間企業の事業主は、常時雇用している労働者の2.2%以上の障害者を雇用しなければなりません。この雇用率を下回っている会社にはペナルティが科され、上回っている会社には報奨金が支給されるという制度です。