――子どもと大人では、どちらが深刻なんですか。
本田 子どもの時期に問題が出ると、なんらかの対応ができるので、大人になるまでに問題が解決していくことが多いです。でも、子どもの頃にはあまりトラブルがなくて、周囲からはなんの問題もないように見えても、本人は内部に葛藤を抱えていることもあるので、大人になってから薬物療法の対象になったりもしますね。知的な遅れがない方は、福祉作業所系の仕事をするのはプライドが許さないので、自分が理想と思っている生活スタイルに届かないことで悩んだり落ち込んだりしてしまい、深刻な二次障害で薬物療法を受けることになったりします。どっちが深刻かというのは難しいですよね。本人が主観的にハッピーかどうかですが、子どもの頃にきちんと把握されて二次障害を防げている人のほうが、主観的にはハッピーだと思います。
――治療薬はないのでしょうか。
本田 ADHDには3種の治療薬が認可され処方されていますが、ASDには治療薬はないと思いますね。ASDは例えれば、コンピュータのOSのバリエーションみたいなもの。ウインドウズが多数派ですが、マックを使う少数派もいます。ASDはいわば、マックを使っている人がウインドウズのアプリを使わされて、ところどころで不都合が起きる……みたいなことなのです。何か薬を飲んでも、マックのOSがウインドウズのOSにはなりませんからね。
――親から子に遺伝するのですか?
本田 遺伝はあると思います。でも、そこをあまり強調しないほうがいいです。研究に乗りにくいからです。発達障害当事者の家族の心理テストをすると、必ずしも普通ではないデータが出るんですが、症状がばっちり遺伝しているわけではない。ちょっとそのケがある親や兄弟がいるなかで、ひとりだけちょっと症状が強い人がいる……といったようなことです。あと、一卵性双生児において、ひとりが発達障害の場合にもうひとりは違う、ということはほぼないので、そういう意味でも、やはり遺伝は関係しているといえるでしょう。
――近年、発達障害にまつわる書籍がたくさん出ていて、昨年もNHKが番組の枠を超えてたくさん発達障害の番組を放送していました。それはなぜなのでしょうか。
本田 まあ、それだけ関心が高いんじゃないですかね。NHKでは、一般学級の6.5%は発達障害だと紹介していました。それは平成24年に文部科学省が行った調査によるものなんですが、他の調査では、養護学級なども含めれば、10%を超えているというデータもあるんですね。日本だけではなく、アメリカのデータでも10%を軽く超えて15%くらいというデータも出ていたりしますから、それだけみんな人ごとじゃないと思っているということでしょう。
――放送後の反響はいかがでしたか?
本田 昨年、僕はNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』という番組に出たんですが、放送のあと受診の申し込みがすごく来るようになりました。なんとなく自分が発達障害ではないかと思っていたり、そうだと思って受診もしているけど、どこか満たされなくて辛いと思っている患者さんがいっぱいいらっしゃるんじゃないでしょうか。
――初診まで数年待ちともいわれていますが、本当ですか?
本田 発達障害って、ちょっと診察しただけではわからないんです。子どもの頃は明らかにわかる人がいっぱいいるんですが、大人になってから受診される人は、見ただけではなかなかわからない。本当に発達障害の問題があるのかどうかを診断するためには、ものすごく詳細な情報を聞き取ったり、ご本人の発言だけではなくて、他人から見た情報とか、過去にさかのぼってそういう状態が昔からあったという証拠があるのかどうかなど、そういったことも含めてずいぶん調べます。まず初回の診察には最低でも一時間はかけますからね。そうすると、どこの児童精神科でも1日に診られる患者さんの数は限られてしまうので、どうしても初診までの待ち時間は長くなってしまうんですね。