精神科医が分析する織田信長の残虐さ…「反社会性人格障害」「サイコパス」は本当か

「第六天魔王」ではなく、むしろ「普通」の人?

 また信長は、自分の子女に冷たかったともしばしば指摘される。しかし実際確認してみると、実の娘については全員、配下や譜代の武将、あるいは貴族の子弟との縁組がなされており、長女の徳姫以外は幸福な人生を送っていたことがわかる。ここにおいても、信長が身内に冷たかったということは決していえないだろう。

 長女の徳姫については家康の長男・信康に嫁入りをしたが、信康は謀反の疑いをかけられて切腹し亡くなってしまう。徳姫と信康の婚姻は戦国時代に特有の政略結婚のようにも見えるが、徳川家は織田家の盟友であり、家康は常に律儀に信長に従っていた存在であった。

 つまり信長は、徳姫をもっとも信頼していた大名に輿入れさせたわけであり、一般的な政略結婚とは必ずしもいえないものであろう。

「第六天魔王」と呼ばれ、ルイス・フロイスからは「すべての王公を軽蔑している」と評された信長であったが、女性への心遣いや身内への配慮の仕方を見ると、ナチュラルな情愛の念を持った「普通」の人であるように、私には思えてくるのである。

(文=岩波 明)

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●岩波 明(いわなみ・あきら)
1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授にして、昭和大学附属烏山病院の院長も兼務。近著に『殺人に至る「病」~精神科医の臨床報告~』 (ベスト新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。