東京株式市場でキヤノン株が下げ幅を広げている。7月31日の終値は前日比126円50銭(7.77%)安の1676円まで下落した。1999年10月以来、およそ20年9カ月ぶりの安値を更新した。
年初来高値は1月20日の3099円。株価は46%下落し、時価総額で1兆8919億円が消し飛んだ。キヤノン(12月決算)は第2四半期(4~6月)の連結最終損益が赤字に転落。初の四半期赤字を嫌気した売りが膨らんだ。
キヤノンの20年4~6月期の連結決算(米国会計基準)は最終損益が88億円の赤字(前年同期は345億円の黒字)だった。四半期の最終赤字は四半期決算の開示を始めた2000年以降で初めてだ。売上高は前年同期比25.7%減の6733億円、営業損益は178億円の赤字(前年同期は431億円の黒字)。営業損益段階から赤字だから、一過性の損失によるものではない。
「減収減益のほとんどがコロナによるもの」。キヤノンの田中稔三副社長兼最高財務責任者(CFO)は7月28日のオンライン記者会見で、こう語った。影響したのは売上高で約2100億円、営業利益は約700億円と試算している。
営業の4つのセグメントすべてで減収になった。事務機器のオフィス事業の売上高は前年同期比30.2%減の3075億円で、営業利益は9億円の赤字(前年同期は404億円の黒字)に沈んだ。4月の緊急事態宣言でオフィスの多くが閉鎖され、オフィス向けのプリンタの設置や印刷需要が落ち込んだ。
デジカメなどイメージングシステム事業の売上高は30.8%減の1417億円。営業利益は8億円と前年に比べ大幅減(前年同期は127億円の利益)。外出制限で旅行やイベントが減り、一眼レフやミラーレスの販売台数は54%減の50万台と半分以下にとどまった。家庭向けインクジェットプリンタが在宅勤務や在宅学習の増加で伸びたが、販売店の休業が響きイメージングシステム全体は大幅な減収、減益となった。
営業増益となったのは医療機器のメディカルシステム事業だけ。売上高は3.1%減の1019億円だが、営業利益は75.5%増の59億円。新型コロナの影響で医療機関との商談は停滞したが、徹底した経費コントロールが奏功し増益を確保した。産業機器事業の売上高は22.4%減の1393億円、営業損益は24億円の赤字(前年同期は95億円の黒字)だ。液晶や有機ELパネルの製造装置は渡航制限で設置が遅れたことが響いた。監視カメラも都市開発や商業施設の計画の遅れが影響した。
20年12月期通期の業績予想は、売上高は前期比14.3%減の3兆800億円、営業利益は74.2%減の450億円、最終損益は65.6%減の430億円を見込む。経済活動の再開で事務機器は最悪期を脱し、徐々に商談が増え、需要が戻ってきているというが、「新型コロナ自体の収束のめどが立っておらず、下期の回復のペースは限定的」(田中CFO)の見方を示した。
業績悪化を受け、6月末の配当は前年同期に比べて40円減の40円にする。6月末に配当を減らすのは円高不況に見舞われた1987年以来33年ぶりのこと。期末配当(前期は80円)は「未定」とした。株主還元に充てていた資金を事業運営や成長投資に振り向ける。高配当株の代表といわれていたキヤノン株もコロナには勝てなかった。
キヤノンの業績悪化は構造的要因によるものだ。コロナはダメを押したにすぎない。主力の事務機器はペーパーレス化の浸透で低迷し、デジカメもスマホの台頭で苦戦が続いている。