カメラが祖業のキヤノンは1967年、事務機器事業に本格参入した。「右手にカメラ、左手に事務機」を経営スローガンに掲げ、経営の両輪としてきた。95年に社長になった御手洗冨士夫氏(現・会長兼社長兼最高経営責任者<CEO>)が円高などで財務が悪化したキヤノンをたて直した。
御手洗氏は事業の「選択と集中」を実践。パソコンなど赤字事業から撤退し、プリンタ向けのインク、カートリッジなどの消耗品で稼ぐオフィス機器とデジタルカメラに経営資源を集中した。その結果、デジカメでは世界ナンバーワンになった。
だが、10年代に入ると、事務機はペーパーレス化、デジカメはスマホ普及で縮小していく。19年、オフィス機器やデジカメ市場の縮小に合わせて約300億円をかけて構造改革を行った。だが、構造的な問題にコロナによる需要減が追い打ちをかけた。今期は販売減に伴う構造改革費用を150億円計上し、追加的な合理化策を検討している。
10年にオランダの商業印刷オセを約1000億円、15年にスウェーデンの監視カメラメーカー、アクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収。16年には東芝からコンピュータ断層撮影装置(CT)などの医療機器を約6600億円で買収した。だが、大型M&Aが際立った利益貢献をしておらず、デジカメや事務機の落ち込みをカバーしているとはいいがたい。
コロナが経営に大きな影を落としている最中に、キヤノンのトップ人事が経済界を驚かせた。5月1日付で真栄田雅也社長兼COO(最高執行責任者)が退き、御手洗会長兼CEOが社長を兼務した。67歳から84歳へのトップ交代。若返りに完全に逆行した。
御手洗氏は過去に2度、計15年近く社長を務め(会長兼務を含む)、今回で3度目の社長就任となる。異例中の異例といっていいトップ人事である。
「世の中は10年単位で大きく変わる」。これが御手洗氏の持論であった。今、通用している経営手法は、次の時代にまったく役に立たなくなる。今までとは違った人によって、違った仕組みをつくらねばならないと御手洗氏は主張してきた。3回目の社長復帰は持論に、まったく反する。四半期決算で初の最終赤字、33年ぶりの減配。コロナのせいにして、経営責任については口を拭うつもりなのだろうか。
これまでにない逆境下のキヤノンをどうやって復活させるのか。まず御手洗氏が身を引くことから始めるべきとの声もある。
(文=編集部)