「無印良品」のブランドで日用雑貨品などを販売する良品計画の米国子会社が、連邦破産法第11条(チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。その要因の一つとして、同社が世界的な経済のデジタル化に乗り遅れたことがありそうだ。
近年、世界的にリアルな空間からデジタル空間での経済活動への大きな流れがある。2020年に入ると、世界各国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、デジタル化のスピードはこれまで以上に加速している。特に3月以降、米国の無店舗小売の売上高が一貫して増加していることはデジタル化の進行を象徴している。
当面、世界の主要国は新型コロナウイルスに対応しながら経済を運営しなければならない。人々が感染のリスクを避けながら日々の生活を営むために、EC(電子商取引)プラットフォーマーなどの社会的な重要性は増すことが予想される。良品計画がデジタル技術を活用して自社製品の魅力を世界の消費者に伝えることができるか否かは、今後の同社の業績に大きく影響することは間違いないだろう。
2011年ごろから2018年半ばごろまで、良品計画の業績は堅調に推移してきた。世界経済全体が緩やかに回復する中で、同社は国内外で大型の店舗を増やして収益の増加を実現した。
店舗運営を重視した事業戦略が奏功した背景の一つに、中国をはじめアジア地域の新興国の所得増加がある。アジア新興国の知人と話をすると、彼らが日本企業の製品を手に入れることに強く憧れていることがわかる。特に、生活雑貨品の分野において良品計画の製品はシンプルかつ耐久性の高い製品設計などが評価され、多くの人気を集めた。
また、欧州でも無印良品ブランドはヒットした。無印良品の衣類、家具などの自然な風合いや使い心地の良さ、自然環境に配慮した商品開発は、環境保護への意識が高い北欧などの消費者から高く評価された。国内でも無印良品のファンは多い。
問題は、店舗運営の強化が実績につながった結果、同社が店舗の運営こそが成長の源泉であるとの考えにのめり込んでしまったとみられることだ。それは、賃料コストが増加する中で良品計画が米国での店舗拡大に取り組んだことから確認できる。
2013年、良品計画は米国の店舗数を増やし始めた。2013年の店舗数は従来から1店舗増加の5店舗となり、2015年には9店舗、2019年には17店舗と増えた(決算期末ベース)。2020年5月末時点での米国における店舗数は19だ。同社は世界経済をけん引してきた米国に大型店舗を構えて業績拡大につなげ、世界の日用雑貨業界のトップを目指そうとした。
しかし、そうした事業戦略は同社の業績を圧迫した。原因の一つが、米国が過去最長の景気回復を遂げ、賃料が高騰したことだ。その中で同社は出店を強化し、賃料コストがかさみ、収益が悪化するという悪循環に陥った。国内外で人手不足が深刻となり、人件費が高騰した影響も大きい。それに加えて、中国経済が成長の限界を迎えたことや、外国為替相場での円高圧力の高まりなども同社の業績にとって逆風となり、2018年半ば以降、同社の業績先行きへの懸念が高まり始めた。
店舗運営にのめり込むあまり、良品計画は世界経済のデジタル化への対応が遅れてしまった。近年、米国や中国をはじめ、世界全体で消費の場がリアルな店舗からデジタル空間に移行している。そのスピードは加速化している。そうした中で良品計画は実店舗の魅力向上に取り組み続けた。良品計画にとって、最も重要なコアコンピタンスは店舗運営である、との発想はかなり強かったといえる。