小売り大手の2020年3~5月期決算を新型コロナウイルスの感染拡大が直撃した。緊急事態宣言の時期と重なり、コンビニエンスストアや百貨店の業績も大幅に悪化した。アパレルは特に厳しい。婦人服ブランド「組曲」などを展開するオンワードホールディングス(HD)は最終損益が24億円の赤字(前年同期は16億円の黒字)だった。四半期の最終赤字は14年ぶり。主力の販路である百貨店が休業したのが響いた。
レディースファッション「ナノ・ユニバース」のTSIホールディングスの最終損益は、104億円の赤字(前年同期は24億円の黒字)。国内店舗の9割にあたる約900店が休業した。女性向けカジュアル衣料のアダストリアは36億円の最終赤字(同32億円の黒字)。初の赤字転落である。4月下旬から5月下旬にかけての2週間、国内の全1248店で臨時休業し、主力ブランド「グローバルワーク」の売上高が47%減となった。カジュアル衣料「マウジー」のバロックジャパンリミテッドは7億円の赤字(同9億円の黒字)。5月の連休にほぼ全店を臨時休業した。
アパレル各社が赤字に転落したなかで、ベビー・子ども用品専門店の西松屋チェーンは黒字を確保した。
西松屋チェーンの20年3~5月期決算(単独)の売上高は前年同期比8.5%増の407億円、営業利益は45.6%増の36億円、純利益は44.5%増の24億円だった。粉ミルクや紙おむつなど消耗品の販売が好調。「店舗が広くて、社会的距離がとりやすい」(大村禎史社長)ことから消費者に受け入れられ、売り上げ単価が伸びた。一時は、全体の4%程度の40店を休業したが業績への影響は限定的だった。
3~5月決算が計画を上回る実績を上げたことから、21年2月期の業績予想を上方修正した。売上高は前期比6%増の1520億円。営業利益は前期の3.5倍の67億円。従来予想は47億円だった。純利益は約4倍の42億円の見込み。同29億円から13億円増額した。ミルクなどの消耗品のほか、子どもの衣料品や雑貨などのプライベートブランド(PB)商品の売れ行きが好調だった。値下げ競争が沈静化し、広告など販売費・一般管理費も抑えられたことが利益を押し上げる。
6月の既存店売上高は前年同月比33.8%増、客数は20.1%増。学校再開や気温が高くなったことで、子どもの夏物衣料の販売が大きく伸びた。コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響で4月と5月の客数は前年同月を下回ったが、客単価が大幅に増え既存店売上高は4月が2.1%増、5月が8.8%増と前年を上回った。粉ミルクやベビーフード、紙おむつなどのまとめ買いもみられた。
西松屋の大きな特徴は、自社開発するプライベートブランド(PB)商品にある。バギータイプのベビーカーを開発し、2010年に初のPB商品として販売を始めた。15年発売のストレッチパンツは879円という低価格が支持され、年間100万枚を超えるヒット商品に育った。子供服は「エルフィンドール」、雑貨は「スマートエンジェル」というブランドを展開。23年2月期にPB商品の売上高だけで900億円と全売上の半分を目指している。
パナソニックやシャープなど関西の企業を退職した技術者たちがPB商品の開発を担う。大村禎史社長自身、京都大学大学院工学研究科修了の技術者。山陽特殊製鋼で働いていたが、1985年、義父の会社を助けるために西松屋に移った。
当時の店舗数は30店、売上高は30億円程度。生産性と効率性を求める製造現場を見てきた大村氏の目には、小売業は売上を第一と考える「売上至上主義」。生産性や効率性が重視されておらず、無駄が多いと映った。「日本の鉄鋼業の生産システムは日本一」と考える大村社長は、製造業のノウハウを小売業に活用していった。