オリンパスはデジタルカメラを中心とする映像事業を投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP、東京・千代田区)に売却して、同事業から撤退する。映像事業を分社化し、関連する人員や資産を移管したうえでJIPに譲渡する。関連する人員は全世界で約4270人。9月末までに正式に契約を締結し、年内に売却を完了させる予定。売却額は明らかにしていない。
JIPは企業が事業部門や子会社を外部へ切り出す(カーブアウト)際に受け皿となるファンドだ。2014年、ソニーの「VAIO」を買収したことで知られている。オリンパスの竹内康雄社長はかねてから、営業利益の90%以上を稼ぐ内視鏡など医療事業に経営資源を集中させる方針を示していた。
2020年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高が前期比0.4%増の7974億円、営業利益は2.9倍の834億円、当期利益は6.3倍の516億円だった。映像事業の売上高は前期比10%減の436億円、営業損益段階で104億円の赤字。ミラーレス一眼カメラを強化、生産拠点の再編に取り組んできたが3年連続の赤字だ。ミラーレス一眼カメラの売上は10%減の324億円、コンパクトデジタルカメラが12%減の62億円、ICレコーダーなどのその他が12%減の49億円。
新型コロナウイルスの影響が深刻になった20年1~3月期の映像事業の売上は前年同期比14%減の89億円に落ち込んだ。スマートフォンの台頭に伴うデジタルカメラの世界的な需要減少で、直近10年で営業黒字は1度だけ。累積損失は1000億円に達し、市場関係者から「売却したらどうか」との要求が強まっていた。
一方、主力の内視鏡事業の20年3月期の売上高は前期比2%増の4257億円、営業利益は22%増の1094億円。中国市場で高い伸びを示し、海外が好調に推移した。1~3月にコロナ影響はあったものの増収を確保。中国事業の期中の売上は800億円を超え、医療分野で中国依存度が13%強となるなど成長を牽引した。
処置具などの治療機器事業の売上高は横ばいの2161億円、営業利益は18%増の262億円。創業事業である生物顕微鏡などの科学事業の売上高は1%増の1052億円、営業利益は23%増の100億円だった。
内視鏡事業が全社売上の53%を叩き出した。映像事業の赤字を補填し、本社費用を賄った。懸案のカメラなど映像事業の売却に踏み切ったことで、名実ともにオリンパスは医療機器メーカーになる。
オリンパスがカメラに進出したのは比較的新しい。大卒の初任給が約1万5000円だった1960年前後、安いカメラでも2万円以上、独ライカ製は20万円もした時代に、ある若手社員の発案で「月収の半額で買うことができるカメラ」の開発にオリンパスは取り組んだ。
1959年、「オリンパスペン」シリーズが発売された。顕微鏡メーカーとして創業したオリンパスは、ペンのヒットで一躍、世界に名を知られるカメラメーカーとなる。オリンパスペンは大衆カメラの代名詞となった。72年、「OM」ブランドで軽量一眼レフを世に出した。その後も、91年、コンパクトカメラ、96年、デジタルカメラ市場に参入した。08年に「ミラーレス一眼」の販売を始めた。コンパクトでおしゃれなデザインが女性の心を惹きつけ、2010年頃からブームとなった「カメラ女子」の牽引役ともなった。
だが、10年代に入ると、スマートフォンにカメラ初心者を奪われ、デジカメ市場に逆風が吹き付けた。カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計によると2019年(暦年)のデジカメの世界出荷台数は前年比21.7%減の1521万台。ピークの10年(1億2146万台)の8分の1となった。スマホで簡単に高画質の写真が撮れるようになり、ポケットにデジカメを入れておく、生活必需品の時代は過ぎ去った。