2019年2月から、トヨタ自動車が定額利用サービス「KINTO ONE」(以下、キント)を開始した。しかし、時期尚早だったのか、申込みは1日平均5件程度といわれるなど、苦戦が続いている。トヨタ以外にも「車のサブスク」サービスが増えているが、いまだに主流とはなっていないようだ。そんな自動車サブスクの課題や今後の展望などついて、自動車に詳しいライターの呉尾律波氏に聞いた。
最近はあらゆるサービスが定額化され、サブスクリプションと呼ばれて流行している。それは自動車業界も例に漏れず、トヨタやホンダ、ボルボなどが、月額定額制で車に乗ることができるサービスを展開中だ。メーカーのみならず、中古車販売のガリバーも16年から同様のサービスを展開するなど、参入業者が増え続けている。しかし、呉尾氏は自動車のサブスクに懐疑的だ。
「そもそも、『モノ』のサブスクサービスは難しい気がします。サブスクで成功しているのはデジタルコンテンツが大多数。さらに、価格帯も月額1000円前後のデジタル勢と比べて、自動車は高額にならざるを得ないため、ユーザーの心理的なハードルが高そうです。また、サブスクは“所有”から“利用”に重点を置くサービスですが、自動車は所有するという意識が強いため、浸透するかは疑問ですね」(呉尾氏)
トヨタのキントは月額3万円台から利用可能だが、契約数は思うように伸びていないようだ。業界最大手でさえも苦戦している理由は、なんだろうか。
「トヨタのサービスは“名ばかりサブスク”で、従来のリースとの違いが不明瞭です。頭金不要や保険付きというメリットを打ち出していますが、車が必要な人は頭金くらいなんとかするでしょうし、保険付きのリースも探せばいくらでもあります」(同)
さらに、利用する際のおトク感にも呉尾氏は疑問を呈する。
「トヨタのサブスクは3、5、7年という期間限定で、使用していた車は返却しないといけません。しかし、トヨタ車は下取り価格が高いので、新車を買って3年後に売ったほうが得です。また、新古車を購入してもサブスクと料金はほぼ変わらない上、車が手元に残るので、売ることも乗り続けることも可能。しかし、サブスクであれば手元に何も残りません。『車は乗りつぶしたほうが安い』と消費者は気づいています」(同)
また、駐車場代は別であるため、基本料金よりもさらにお金がかかることは必至だ。さらに、期間終了後に追加料金がかかる可能性もあるという。規約では「査定により内外装及び事故歴に関する減点が100点を超過した場合、原状回復費用として1点あたり1100円」という記述があるのだ。
「乗り方によっては、多額の原状回復費用がかかる可能性もあるということです。初期費用を抑えられるため若年層向けのサービスと言われていますが、これでは運転初心者に分が悪い。さらに、月間走行距離1500kmを超えたら1kmにつき11円かかります。3万km超過したら33万円払う必要があるわけです。これは他社のサブスクサービスも同様ですが、完全に乗り放題というわけでもないのです」(同)
ホンダが展開している「Honda マンスリーオーナー」は中古車限定のサービスで、1~11カ月の範囲で月額2万9800円から利用可能だ。
また、ボルボは「SMAVO」を17年から始めている。現在は月額6万円台からの新車プランと、3万円台からの中古車プラン「SELEKT SMAVO」がある。ボルボでは、新車販売の9%がサブスク利用者だという。