伊藤忠の鉢村CFOは「一過性の利益を除く基礎収益ではウチが(商社リーグ)トップ」と主張したが、一過性の利益(あるいは損失)を含めた総合力の闘いというところが商社の決算の特質なのである。伊藤忠も19年3月期決算(発表は18年11月2日)で「10%を出資する中国国有企業、中国中信集団(CITIC)の株式を減損処理して、1433億円の損失を計上」している。
この時は、ユニー・ファミリーマートホールディングス(当時)の子会社化に伴う株式評価益が1412億円発生したため、CITICの減損を相殺する格好になった。ファミマの利益が出たからCITICの株式を減損処理したといったほうが、より正確かもしれない。いずれにしても伊藤忠だって、過去に1000億円単位の一過性の利益を計上しているわけだから、20年3月期決算の三菱商事の隠し玉を、鉢村CFOのように激しく批判できる立場にはない。
伊藤忠は2021年3月期の最終利益を4000億円と公表している。三菱商事は「未定」だ。三菱商事は原油の価格下落、世界の資源市場の急変、米中戦争の穀物市場への影響など利益が目減りする要因はたくさんある。市場コンセンサスによる「三菱商事の今期最終利益は3253億円」だが、冒頭に書いたように決算、特に利益は経営トップの意思の発露である。垣内社長がトップの座をやすやすと明け渡すとは思えない。もし、そういう事態になれば、「垣内さんは社長を辞めることになる」(垣内氏に近い三菱商事の役員)。「首位争いは4000億円の攻防」との見方が株式市場にあるが、筆者は4500億円を上回る高次元での闘いになるのではないかと見ている。
伊藤忠にとってエポックメーキングな出来事があった。6月2日、伊藤忠の時価総額は終値ベースで3兆7649億円となり、三菱商事(3兆6964億円)を上回り、総合商社で初の首位に立った。この時の両社の差はわずか685億円である。三菱商事が5月末に3000億円弱の自社株を消却したため、逆転は時間の問題と見られていた。予定通り三菱商事が自社株の消却を終えたのは自信の表れ、という指摘もある。6月12日終値での時価総額の差は1208億円まで広がった。伊藤忠が断然、優位に立つ。
三菱商事・伊藤忠の株主総会が開催される6月末時点の時価総額がどうなっているかがひとつのバロメーターとなろう。コロナへの耐久力はどちらが強いのか。20年9月中間決算である程度の見通しが立つ。ここでも、三菱商事が伊藤忠の後塵を拝しているようだと、それこそ緊急事態宣言を発出しなければならなくなる。
総合商社の業績のボトムは20年4~6月決算と思っていたが、7~9月期にズレ込む可能性が強まってきた。21年3月期決算ほど経営トップの決断力の質が問われることはないだろう。ここでの決算に対する姿勢が、先々の企業の存亡を決めることになる。いずれにしてもトップの状況判断力、決断力、そして遂行力が問われている。未来に対する予知力が最も大切になるかもしれない。今回、論考しなかった大手商社同士の再編の動きが出てくるのは20年年末ではなかろうか。
(文=有森隆/ジャーナリスト)