テレビCMなどの広告やテレワーク導入の動きによって、人気を集めているモバイルWi-Fiルーター。しかし、今年の春にデータ通信容量無制限を謳ったモバイルWi-Fiルーターサービスで次々と問題が起こったのである。
グッド・ラックが提供している「どんなときもWiFi」では、2月と3月に通信障害が発生。4月3日にサービス安定供給のため、新規の申し込み受付を停止した。エックスモバイルが展開している「限界突破WiFi」でも通信速度低下の問題が発生し、4月1日からは1日ごとの通信速度制限を設けて使い放題を事実上撤廃。既存ユーザーに対する返金対応などを行ったのだ。
両社のモバイルWi-FiルーターでuCloudlinkという中国企業が提供するクラウドSIMを採用していたことから、クラウドSIMに原因があるのではないかという声もささやかれていたが、4月3日にuCloudlinkはそういった見解を否定する声明を出している。
いずれにしても、使い放題と銘打ったにもかかわらずトラブルが相次いだことで、少なくないユーザーに不信感を与えることになってしまったが、はたしてモバイルWi-Fiルーターを取り巻く状況は現在どうなっているのだろうか。そこでモバイル業界に詳しいジャーナリストの法林岳之氏に話を聞いた。
そもそもクラウドSIMとはどういった仕組みの技術なのだろうか。
「これまでのモバイルWi-Fiルーターは、携帯電話会社や格安SIMを提供している事業者『MVNO』と回線契約を結び、その情報をSIMカードやモバイルWi-Fiルーター本体に書き込んで使用するというのが一般的でした。
一方、この3年ぐらいで増加しているクラウドSIMは先に挙げたタイプとは異なり、ユーザーの手元にあるモバイルWi-Fiルーターの中に携帯電話会社やMVNOのSIMカードは入っていません。サーバー側がインターネット上にSIMカードを何枚もいれたSIMBOXというものを用意しており、ユーザーのモバイルWi-Fiルーターはそこにアクセスして、契約情報をダウンロードするようなかたちで使います。
クラウドSIMはもともと、海外旅行用のレンタルのモバイルWi-Fiルーターで採用されていました。そこで一定の評価を獲得し、uCloudlinkといった企業がSIMBOXを日本の通信事業者に売り込んだ結果、採用する会社が増えていって現在に至るのではないかと思います」(法林氏)
では、クラウドSIMを採用したモバイルWi-Fiルーターサービスで問題が相次いだ理由は、いったいなんだったのだろうか。
「今回のトラブルはクラウドSIMだから必ず発生するというものではなく、クラウドSIMサービスを提供している通信事業者と、回線を貸している携帯電話会社の契約の問題が、結果としてユーザーに及んでしまったのです。
通信事業者が用意しているSIMBOXに挿し込まれているSIMカードは、回線契約を結んだ各携帯電話会社から調達しています。当然そこにはコストが発生し、携帯電話会社も無制限に貸し出すことはないので、使い放題を謳ったサービスのほとんどは、完全にデータ通信の容量が無制限ということはほぼありません。大元である携帯電話会社でも、データ量無制限を料金プランではなく、キャンペーンとして提供している会社があるくらいですからね。
そのため、今回のトラブルは用意した回線に対して、ユーザーがどのくらい利用するかという分析を見誤ったために起きてしまったのではないかと考えられます」(法林氏)