“消えた”緊急事態宣言発令、なぜデマは流れた?安倍首相官邸、発令への“判断基準”

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安倍晋三首相(写真:ロイター/アフロ)

 多くの国民が注視している改正新型インフルエンザ等特措法に基づく「緊急事態宣言」。政府、東京都の外出自粛要請の限界も露呈しつつあり、最近では宣言の発令を待ち望むような意見もインターネット上で散見されるようになりつつある。宣言をめぐり政府内部ではどのような議論が交わされているのか。実情を探った。

世耕氏の「緊急事態宣言デマ」の否定

 世耕弘成自民党参議院幹事長は30日午後7時40分、突如として以下のようなツイートを投稿した。

 

「ネット上で、政府が緊急事態宣言の検討を本格化していて、4月2日から首都封鎖(ロックダウン)が行われるとのデマが、官邸関係者の話や民放幹部の話として流されていますが、根拠のないデマです。今夕の官房長官記者会見で明確に否定されていますので、やり取りの概要を紹介しておきます」(原文ママ、以下同)

「記者質問)ネット上では政府が緊急事態宣言 検討を本格化、4月1日に発表、2日から首都封鎖、ロックダウンが行われるとの真偽不明情報が相当数拡散、憶測を呼んでいる。政府は確認してるか?内容は事実か?事実でないなら、かかる情報の拡散に対する政府としての受け止めや国民への呼びかけを。(続く)」

「(続き)官房長官回答) まず、そうした事実はありません、明確に否定しておきます。現在、国民 の皆さんには大変な御不便をおかけしていますが、それは緊急事態宣言のような厳しい 措置を回避するためのものであります。現状ではまだ緊急事態宣言が必要な状態ではない、このように考えております」

 世耕氏の投稿は、同日午後に行われた菅義偉内閣官房長官の会見を受けたものだ。ただその情報がデマだったとして、なぜ内閣府や内閣官房、厚生労働省ではなく、世耕氏が個人的に否定したのだろう。

 実は菅官房長官が否定するまでのいきさつがあった。菅官房長官は同日午前の記者会見で次のように述べていた。

「緊急事態宣言は、国民生活に重大な影響を与えることを鑑みて、多方面から専門的な知見に基づき慎重に判断することが必要だ」

 そしてその会見の直後、日本医師会が記者会見を開いた。政府の新型コロナウイルス感染症専門家会議の委員でもある常任理事の釜萢敏氏が次のように政府に対応を促したのだ。

「専門家の間では緊急事態宣言はもう発令していただいたほうがいいのではないかという意見がほとんど。感染拡大の状況を見れば、もう発令していい。ただ宣言のインパクトは大きく、政府は疫学だけでなく社会への影響をどう評価するか総合的な判断が必要になる。国がバランスをとって判断するだろう」

 医療現場を代表する日本医師会が、プレスリリースでも専門家会議内での意見表明でもなく、記者会見という場を開いて発表したことは非常に大きなインパクトがあった。だが結局、その見解は同日2回目の菅官房長官の記者会見で否定されることになった。

院内感染の拡大を医師会が危惧か

 いったい政府部内で何が起こっているのか。厚生労働省関係者は次のように語る。

「日本医師会内の意見が急速に緊急事態宣言発令に傾いた要因の一つになったのが、東京都台東区内の病院の院内感染の拡大だったと思われます。永寿総合病院で最初に感染が明らかになったのは24日でした。内科の入院患者と医療従事者ら5人が感染し、医師への感染も出ました。感染者の転院も難航していて、28日までに判明した感染者は計70人に上りました。