この4月から、大学や短大、高等専門学校(4、5年制)、専門学校といった高等教育機関を対象とする無償化が始まる。4人家族の例で、年収約380万円未満の低所得世帯の学生を中心に、高等教育機関の授業料や入学金などを実質的に減免(無償化)する新制度だ。
この無償化は、「授業料や入学金の減免」と大学生活費をまかなう「返済不要の給付型奨学金の支給」の2本柱である。4人世帯の目安で年収約270万円以下の住民税非課税世帯は、授業料減免と給付型奨学金の金額の上限まで利用できる。また、約300万円もひとつのボーダーになっている(図表参照)。
対象は新入生だけでなく、在学生も利用できるが、成績などの具体的条件は次回に詳しくレポートしたい。今回は、高等教育機関はすべて無償化の対象になるわけではないので、その条件についてアプローチしたい。
文部科学省などが提示した無償化の対象となる大学などの要件は、次の通りだ。
(1)実務経験のある教員による授業科目が標準単位数(4年制大学の場合、124単位)の1割以上、配置されていること。ただし、学問分野の特性などにより満たすことができない学部などについては、やむを得ない理由や、実践的教育の充実に向けた取組を説明・公表することが必要。
(2)法人の「理事」に産業界などの外部人材を複数任命していること。
(3)授業計画(シラバス)の作成、GPAなどの成績評価の客観的指標の設定、卒業の認定に関する方針の策定などにより、厳格かつ適正な成績管理を実施・公表していること。
(4)法令に則り、貸借対照表、損益計算書その他の財務諸表などの情報や、定員充足状況や進学・就職の状況など教育活動に係る情報を開示していること。
この要件のうち、当初は特に(1)や(2)の実務家教員の授業割合と外部理事に産業人などを複数登用することが大学側の反発を呼んだ。自主性を貴ぶ大学教育にとって、不当な介入というのだ。
この無償化プランが2017年に公表された後、毎日新聞が全国の国立大学にアンケートしたところ、回答した72大学のうち、賛成10%、反対72%、その他18%であった。また、私立大学団体からも批判が出た。伝統と校風を軽視し、大学の自治を揺るがすというのである。
「実務家教員と外部理事の登用」は、文科省が何かにつけて大学側に注文をつけるときのキーワードである。20年からスタートした専門職大学でも実務家教員は重要要件とされているが、文科省がその明確な定義を示すことができていないといわれる。
現状でも、大学の理工系学部に取材に行くと、名刺の裏に以前勤めていた企業名が書かれていることが多い。大学のホームページの教員紹介でも同様だ。学科によっては実務家教員が相当数を占め、最近では実務家教員養成をうたう学校まで登場している。実務経験がないポスドク(博士研究員)が、うまく実務家教員にカモフラージュする方法なども噂されている。現状では、実務家教員が大学の実践的教育にどれだけ寄与しているのか、学部学科を超えて客観的な共通理解があるとは思えない。
また、学校法人の外部理事に産業人を登用するという条件にも同じことが言える。過去、政府の教育関連会議などで民間企業の産業人が主張したと言われる法科大学院制度による法曹人口増や大学院の拡充施策は、実現して間もなく行き詰まり、見直しを迫られた。ともに、大学院に進学する学生の将来の活路整備を軽視したためだ。産業人は経済や企業の視点を優先させ、学生たちのことを真剣に考えていないとしか思えない。