IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は、2020年3月期に初の最終赤字に転落する。05年に上場して以来、初の赤字だ。ゲーム事業の収益性低下で約500億円の減損損失を計上する。
19年4~12月期の連結決算(国際会計基準)の最終損益は501億円の赤字(18年同期は80億円の黒字)だった。20年3月期通期でも赤字となるのは確実で、守安功社長兼最高経営責任者(CEO)は「上場以来の赤字で責任を感じている」と陳謝した。創業者の南場智子会長と守安社長は月額報酬の50%を3カ月減額する。
19年4~12月期の売上高に当たる売上収益は、旅行事業の子会社の売却やゲーム事業の減収が響き、前年同期比4%減の911億円、営業損益は441億円の赤字(18年同期は85億円の黒字)。主力のゲーム事業の「のれん代」やソフトウエアの減損損失493億円を計上したことが大きく響いた。米国市場開拓を狙って10年に買収したが、ヒット作が出ず16年に解散していた米子会社ngmocoの「のれん代」401億円と、ソフトの開発費として計上していた資産のうち81億円を減損計上した。守安社長は記者会見で「のれん代」の減損処理について、「いくつか有力な(ゲーム)作品を仕込んで反転をめざしていたが、思うようなヒットにつながらなかった」と説明した。
誤算は、ポケモン(東京・港区)と共同開発し、19年8月に配信したゲームアプリ「ポケモンマスターズ」だ。配信直後から不具合が相次ぎ、ヒットしなかった。15年に資本業務提携した任天堂とは、「スーパーマリオラン」や「どうぶつの森ポケットキャンプ」を展開し、一定のヒットにつながった。ポケモンマスターズも、ポケモンという世界的なコンテンツを前面に出しただけに、期待が高かった。しかし、不具合が多発し、課金収入が想定に届かなかった。
主力のゲームはガラケー(従来型携帯電話)時代には、利用者とゲームの仲介役であるプラットフォーム「モバゲー」などが成長を牽引した。ガラケー向けが好調だったことがスマートフォン(スマホ)向けの開発の出遅れにつながり競争力を失った。
DeNAはここ数年、新規事業の育成に取り組んできた。2019年度の初頭から、複数の新規事業をゲーム事業に匹敵する収益の柱に育て、営業利益を1000億円にする長期目標を掲げた。
その中核だったのが、配車アプリ「MOV(モブ)」を中心としたオートモーティブ事業だ。2017年、神奈川県タクシー協会の協力の下、AI(人工知能)を使った需要予測システムを活用した配車アプリ事業に参入した。横浜市でスタートし、東京都や関西などにも対象を広げたが競争が激しすぎた。
配車アプリは日本交通系のジャパンタクシー(東京・千代田区)が約7万台のタクシーを配車できる最大手。中国のライドシェア大手、滴滴出行とソフトバンクが共同出資するDiDiモビリティジャパン(東京・千代田区)が東京や大阪など23都道府県で事業を展開。ソニーやタクシー大手が出資している。みんなのタクシー(東京・台東区)は都内で配車アプリ「S・RIDE(エスライド)」を手掛ける。配車アプリの生みの親といえる米ウーバー・テクノロジーの日本法人ウーバージャパン(東京・渋谷区)も大阪府や福岡県でサービスを始めるなど競争は激しい。
各社は割引クーポンを相次ぎ発行し、全国の22万台のタクシーを奪い合う。ところが、肝心要の利用が進まない。配車アプリ経由の利用回数はタクシー利用全体の2%程度とみられている。