ロイヤルHD、ロイホと真逆の新業態店を展開…火と油を使わない&現金使えない

 飲食代金の支払いはクレジットカードか電子マネー、QRコード決済のいずれかで行う。二子玉川店では利用履歴が残るのを嫌がるお客のために、プリペイド型「楽天Edy」も用意。どうしても現金派は、ここでチャージして支払う。

 従業員に対しては「生産性向上と働き方改革をめざした」。キャッシュレスにより、時間的負担が大きかった閉店後の売上代金確認や夜間金庫への入金などがゼロになった。

 こうした一連の取り組みは興味深い。ロイヤルHDは、外食業界のなかでも早くから働き方改革に取り組み、ブラック労働にならない工夫もしてきた。

 ただし、あくまでも従業員への対応だ。興味を持つ人は多いだろうが、飲食店の来店客には関係ない“社内事情”だ。飲食の味、接客、店内の雰囲気とは別の話になる。

【完了】ロイヤルHD、ロイホと真逆の新業態店を展開…火と油を使わない&現金使えないの画像3
タブレット端末に表示された料理メニューの例

「ロイヤルデリ」として中食にも対応

 この店の特徴はまだある。19年9月に立ち上げた新ブランド「ロイヤルデリ」という一般向け冷凍食品も販売する。二子玉川店店内には陳列ケースがあり、持ち帰りできる。

 たとえば「シーフードドリア」(650円)、「マハラジャチキンカレー」(530円)、「ドミグラスハンバーグ」(630円)などから、「フレンチトースト」(250円)もある。半世紀以上前から業務用冷凍料理を提供して培ったノウハウを生かしたという。

「帰宅途中に立ち寄り、これだけ買って帰られるお客さまもいます」(ロイヤルHD広報)

 女性の就業率が7割を超え、男女ともに忙しい現代社会。外食でも内食(家庭での料理・食事)でもない「中食」(外で買い自宅で食べる)市場は伸びている。日本惣菜協会の「2019年版惣菜白書」によれば、18年で市場規模は約10兆2518億円に達した。09年(同8兆540億円)に比べて、10年で27%も拡大した成長市場を見据えたものだ。

【完了】ロイヤルHD、ロイホと真逆の新業態店を展開…火と油を使わない&現金使えないの画像4
「ロイヤルデリ」の商品ケース

今後の課題は「脱・楽天」

 二子玉川は、15年に楽天グループが本社機能を移転させた。それ以降、街の雰囲気が一段と変わり、巨大IT企業のおひざ元にもなった。

 今回の店も同社と組んだ、さまざまな取り組みを行う。たとえば、店で用いるオーガニック野菜は「Rakuten Ragri」(楽天の農業サービス)の収穫物を使用する。

 まだ一般のお客には関係ないが、楽天グループの従業員には、期間限定で実施中の「顔認証決済」もある。これは事前にスマートフォンに顔写真を登録すれば、iPadに顔をかざすだけで会計が済む。楽天技術研究所の顔認証技術の応用だという。

 だが、新業態店が「楽天の社員食堂」的なイメージがつくのは避けたいところだ。

 楽天が「楽天市場」の配送料一律無料化を打ち出した問題は、中小出店者からの反発を招き、独占禁止法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会が立ち入り検査を行った。この件の可否は横に置くが、さまざまな企業現場を取材すると、同社の傲慢な対応を批判する声は耳にする。特定の企業色がつくのは、新業態としてどうかと思うのだ。

 引いた視点で見ると、二子玉川店には「BtoC」(企業対消費者)の一面もあれば、「BtoB」(企業対企業)の一面もある。今後は整理して次の出店を進めないと、店の性格がわかりにくい――と取材者目線では感じた。

飲食店の「基本性能」と「付加価値」

 普段、カフェを分析する記事も多く書く筆者は、飲食店の特徴を「基本性能」と「付加価値」に分けて説明している。飲食店の基本性能とは「場所と飲食の提供」だ。

 二子玉川店の付加価値を消費者視点で考えると、たとえば以下のようになる。

(1)カフェのような空間で気軽に飲食ができる
(2)アルコールメニューが揃い、フードメニューも多い
(3)座席のイスにはクッションが置かれ、長時間座っても疲れにくい
(4)飲食の価格は割と手頃で、持ち帰りもできる
(5)キャッシュレスなので現金を持たなくても使える