「世界のソニー」復活、革新的商品で世界を魅了…GAFAの仲間入りへ、ソフトでも稼ぐ

 このように考えると、ヒット商品の創出には、魅力的なプロダクト(ハード)の製造だけでなく、他にはないソフトウェア(発想など)を生み出す力が不可欠であることがわかる。逆に言えば、特定の技術に固執するのではなく、常に新しい発想を用いて、従来にはない満足感を生み出す技術の実現を目指すことが求められる。

 今回のCESにソニーが出展したEVのコンセプトカーを目にして、「あっ」と驚かされた市場・業界関係者は多かったようだ。まず、エレクトロニクス企業であるソニーが自動車を手掛けるとは予想すらしなかった市場関係者は多いようだ。

 それだけではない、ソニーが手掛けたデザインは高く評価されたようだ。また、移動しながら映画などのコンテンツを楽しむという新しい移動のコンセプト(価値観)を具体的に世に示したことも、多くの人々の心をとらえた。それこそがソニーの狙いだろう。ソニーにとって重要なことは、新しい発想の創造・実現を目指してヒト・モノ・カネを最先端分野に再配分し、人々の満足感を生み出すことだ。別の言い方をすれば、自社の要素を活かして、世界に対して新しい生き方を提唱する。それは需要の創出を目指すことにほかならない。

 今回のEVに関しても、他の企業が魅了される要素は多かったと考えられる。それがあったからこそ、ソニーは独ボッシュや米クアルコムなどの企業の協力を取り付け、新しい自動車のコンセプトを世界に示すことができた。このように考えると、ソフトとハードの両面で、ソニーは本来の力を取り戻しつつあると考えられる。

ソニーはわが国のGAFA銘柄

 今後、ソニーに期待したいことは、かつてのウォークマンのように、世界に鮮烈な印象を与え、多くの人が「どうしても手に入れたい」と思わずにはおれないヒット商品を生み出し、成長を実現することだ。現状、ソニー経営陣は、「社会的にインパクトのある事をやりたい」との意思を表明している。ソニーの組織全体で、これまでにはなかった発想を実現し、人々の生き方を変えるようなプロダクトを生み出そうという価値観が共有されつつあるとみてよいだろう。

 その上で、ソニーVISION-Sのような新しいモノの創造を通して、新しい“生き方”を世に示すことができれば、同社の成長期待はさらに高まるだろう。革新的な製品を生み出すことのできる企業で働きたいと思う人も増えるはずだ。ソニーに求められることは、そうした取り組みを長期的な視点で強化し、常に新しい価値観の実現を目指すことだろう。

 そのためにも、ソニーにはモノづくりの文化に磨きをかけてもらいたい。すでに、同社は2006年に生産停止を決定した犬型ロボット「AIBO」の生産を再開し、さまざまなモノがIT空間とシンクロナイズするIoT時代を見据えた取り組みを進めている。VISION-Sの開発にはAIBOのチームが主導的な役割を果たした。

 VISION-Sが今すぐにソニーの収益に貢献するわけではない。それよりも重要なことは、ソニー経営陣が、CMOSイメージセンサーで得られた経営資源を、最先端のテクノロジーや技術の開発に再配分し、組織全体が新しいことに取り組む文化を醸成しようとしていることだ。

 それは、新しい発想の実現を通したヒット商品の創造には欠かせない。反対に、既存事業で十分な収益を確保し、それを先端分野に再配分することが難しくなると、企業が長期的な視点で社会に驚きを与えるような製品の創造を目指すことは困難となるだろう。

 ソニーはある程度の長めの展望で革新的なモノを生み出そうとするだけの強さ、ゆとりを取り戻しつつあると考えられる。同時に、ソニーは常に多様な、新しい価値観の取り込みを進め、変革を目指さなければならない。ソニーが既存事業の収益性を高めつつ、他の企業との提携などを通してさらなるヒット商品の創造に取り組むことを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)