1月7日から10日にかけて、米ラスベガスにおいて世界最大級のデジタル技術・商品の見本市である「CES」が開催された。そのなかでソニーは、自動運転技術を搭載した電気自動車(EV)のコンセプトカー「VISION-S(ビジョン‐エス)」を出展し、大きな注目を集めた。
かつてソニーは、ウォークマンなど新しいモノ(家電製品などのプロダクト)を創造することで、社会の文化に大きな変化をもたらした。今回のCESでソニーは、自社の強みであり成長の源泉である“モノづくり”の大切さを取り戻し、それを磨くとの方針を、はっきりと、強く、世界に提示したと考える。その見方から、「ソニーが、ソニーらしさを取り戻しつつある」と先行きに期待を寄せる市場参加者もいる。
冷静に考えると、人々が「欲しい」と思わずにはいられないモノを生み出すことができれば、企業がリスクに対応しつつ、長期の成長を目指すことは可能だ。ソニーがその実現に向けて、どのような“モノ”を生み出すか、これまで以上に今後の取り組みが注目される。
もともと、ソニーは新しい“モノ(家電製品)”を生み出し、ヒット商品を創出することを通して成長を遂げてきた企業だ。ウォークマン、ハンディーカム、トリニトロンテレビなど、ソニーは、洗練されたデザインと、高いクオリティ(高い音質や画像の美しさなど)を両立してきた。
先端のテクノロジーをプロダクトに落とし込み、革新的な技術とデザインとを両立させることができたからこそ、ソニーは世界の人々を魅了することができた。それは、アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズに影響を与えるなど、世界経済にも大きな影響を与えたと考えられる。
1990年代、同社の経営は大きく変化した。ソニーは金融やエンターテイメントなどを事業ポートフォリオに組み入れ、コングロマリット経営を重視し始めた。結果的に、コングロマリット経営の推進とともにモノづくりのカルチャーは希薄化し、ヒット商品は見当たらなくなってしまった。2014年にはスマートフォン事業の不振から初めての無配に陥るなど、経営状況がかなり厳しい時期もあった。
その後、ソニーは徐々にモノづくりの大切さを取り戻し、その強さを発揮しつつある。それを支えてきた要素が、スマートフォンなどに搭載される画像処理センサー(CMOSイメージセンサー)だ。ソニーのCMOSイメージセンサーの競争力は高く、世界的なシェアも50%と高い。それが、近年の業績回復を支えた。車載分野など、ソニーの画像処理センサーへの需要は高まるとの期待も高い。
重要なことは、ソニーが自社にとって重要な要素は何かを見つめなおし、モノづくりの文化を育み続けることの重要性を再認識したことだろう。それがなければ、同社が画像処理の技術を磨き、高いシェアを獲得し、維持することは難しかったはずだ。ソニー経営陣は、明確に画像処理センサー事業を重視する姿勢を示し、生産能力の増強にも取り組んでいる。経営陣が自社の強みをしっかりと客観的に理解していることは、今後の成長に重要な要素と考えられる。
その上で今回のCESにおけるソニーの出展を考えると、興味深い示唆が得られる。それは、ソニーが新しい発想の実現を通して、ヒットメーカーとしての存在感を発揮しようとしていると考えられることだ。
もともと、ソニーがヒット商品を生み出すことができたのは、「こういうものがあったら楽しい」といった考えを大切にしてきたからだろう。それがあったからこそ、ソニーは新しいテクノロジーを実際の製品に反映し、より大きな満足感(付加価値)を社会に提供できた。