楽天、出店者猛反発でも送料負担強制を強行…アマゾンより“劣るサービス”に強烈な焦り

楽天の三木谷浩史社長(撮影=編集部)

 ネット通販サイト「楽天市場」を運営する楽天は3月18日から、購入者が3980円以上の買い物をした場合、一律で送料無料(沖縄や離島を除く)とする。出店者の任意団体、楽天ユニオンは1月22日、出店者負担で無料にすることに対し、独占禁止法違反に当たるとして、公正取引委員会に送料無料をやめさせる排除措置を求める署名を提出した。楽天ユニオンは出店者ら1766筆分の署名を提出。出店者側の十分な同意を得ないまま送料無料の制度を導入するのは独禁法で禁じる「優越的地位の乱用に当たる」と訴えた。

 公取委の菅久修一事務総長は同日の記者会見で「一般論では、地位が優越した企業が不当に不利益を与えることは独禁法違反に当たる可能性がある」と述べ、楽天の株価は急落した。楽天の三木谷浩史会長兼社長は「送料を(店に)負担しろと言っているのではない。価格で調整してもらえばいい」と強気だ。各出店者が価格を工夫することによって送料分を回収すれば問題ない、との立場だ。

 楽天はネット通販が本業。1997年に楽天市場を始めて業界を牽引してきた。だが、2000年に米アマゾン・ドット・コムの日本法人アマゾンジャパンが事業を開始した。自社で商品を仕入れて配送する直販事業が主体のアマゾンでは、購入者が2000円以上の商品を購入したり、会員制の「プライム会員」になれば送料は無料になる。これで売上を急激に伸ばしてきた。

 アマゾンは2018年だけで3000億円強を投じ、全国の複数拠点に巨大な倉庫を持つ物流網を整備。送料を均一化しやすい環境を整備した上に、動画配信サービスなどと組み合わせた有料会員制度で消費者に送料の負担を感じさせない仕組みを導入している。ニールセンデジタルの調査によると、19年11月時点の通販サイトの利用者はアマゾンが4963万人。楽天市場の4677万人を上回る。

 楽天は直販事業ではない。通販サイト「楽天市場」の運営会社だ。これまでは店側が送料を自由に設定してきた。楽天は送料無料で利用者の拡大を狙うが、一方的な通告に出店者側の怒りが噴出した。楽天ユニオンは、楽天のルールに違反した出店者への違約金制度(最大300万円)などの慣行についても調査や撤回を求める署名、延べ4000筆を公取委に提出した。

公取委が調査

 楽天の物流網の人口カバー率は約60%にとどまっており、都市部への偏りが大きい。約5万の出店者に一律の送料無料を強制するには、準備不足だった。今後は、公取委を舞台に独占禁止法上の「優越的地位の乱用」に当たるかどうかが争われることになる。優越的地位の乱用は、影響力の大きい企業が取引の多い中小企業に対して、自社の利益を優先して製品の大幅な値下げなどを迫るケースが該当する。一方、商業施設の運営者が地価の上昇を理由にテナント料を引き上げることなどは、正当な理由があると認められている。楽天は、「利用者の増加は出店者の売上増加につながるので、行き過ぎた要求には当たらない」との見解だ。

 公取委は19年10月にまとめた報告書で、プラットフォーマー(PF)による一方的な規約変更などを問題視している。「契約した時と条件が変わるのはおかしい」という出店者側の主張を公取委がどう判断するかだ。

「三木谷氏は以前も、楽天市場で銀行振込の代金決済を楽天銀行に限定したため、出店者のブーイングと(楽天市場からの)撤退表明が相次いだことがある。今回もこうした強硬路線が見え隠れする。やり方が乱暴すぎた。無理筋を通そうとするのは、ネット通販で海外が伸びておらず、どうしても国内で利益を上げるしかないからだ」(外資系証券会社のアナリスト)。