社員数が少ないメーカーという現状を踏まえ、自社でできること・相手先に委ねることを整理したうえでの展開になるのだろう。
V字復活を遂げたベルガードだが、長年の願望がある。「NPBの日本人選手が自腹で用具を買うメーカーになりたい」という思いだ。
これには説明が必要だろう。日本のプロ野球界も、さまざまな問題を抱えている。メーカーから見た悩みは「無償提供が当たり前」と考える選手の意識だ。
昭和時代から大手メーカーは、有名プロ野球選手には多額の契約金を支払った上で、用具の無償提供を続けてきた。それが進み、将来有望なアマチュア選手にも無償提供をしてきた。そうした意識のままプロになると感覚も鈍る。なかには受け取った用具を支援者などにプレゼントし続け、メーカーに対して次々に新品を要求する選手もいる。業界関係者はこう話す。
「無償提供の慣習がレギュラー選手以外にも浸透し、そうした意識の二軍選手もいます。メーカー側も関係を見直しますが、完全にはなくなりません。昔ほど商品が売れる時代でもないので、過度の無償提供はメーカーの収益を圧迫しているのです」
MLBの選手にはそうした意識は低く、有名選手が自ら注文する例もあると聞く。一般会社員から見れば夢のような金額を手にする選手ゆえ、「気に入った用具は自腹で買う」のだ。ベルガードの目指す道もここにある。
「当社は『Made in Saitamaのメーカー』として、これまでどおり丁寧なものづくりを心がけたい。その結果、買っていただける日本人選手を増やしたいですね」(永井氏)
選手に媚びるのではなく、振り向いてもらう。そんな用具メーカーの今後に注目していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。 近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。