サッカー日本一を決める天皇杯全日本選手権の決勝は1月1日、完成したばかりの東京・国立競技場で行われ、ヴィッセル神戸が初優勝を飾った。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、宙に舞った。
2004年、三木谷氏の個人資産管理会社がヴィッセル神戸の経営を引き継いだ。選手の補強や監督の人事で支出が膨らみ続け、06年には累積赤字約29億円を個人で補填。2度のJ2降格を経て、15年に楽天の完全子会社に移行した。その後は豊富な資金力をバックに元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタなど大物を獲得した。チーム創設25年目に手にした初の栄冠である。三木谷氏にとっても新年早々、明るい話題である。
サッカーでは確かに勝ったが、楽天を取り巻く経営環境は厳しさを増している。通販サイト「楽天市場」は3月18日から、3980円以上の購入であれば送料を一律に無料(沖縄・離島を除く)にする。これまでは送料は出店者が自由に決めていた。今回、送料が店側の負担になることから一部の出店者が反発。公正取引委員会も関心を寄せている。三木谷氏は1月6日、「予定通り開始する」と重ねて表明した。
楽天は、送料を無料にすることで集客力が高まり売上が伸びると出店者側に説明。送料については、本体価格に上乗せすることで対処できるとの考えを示してきた。楽天が送料無料の方針を打ち出したのは、競合するアマゾン・ジャパンの「アマゾンプライム」の対抗策という側面がある。アマゾンは日本事業に18年だけで3000億円強を投じ物流網を強化している。直販事業が大半のアマゾンは2000円以上購入すると、送料はゼロ。これで売上を伸ばしている。
これまで楽天市場では、無料配送にする購入金額を店側が自由に設定してきた。一方的な通告に出店者側の怒りが噴出。出店者は「楽天ユニオン」を結成した。「楽天は優越的地位を乱用している。撤回を強く求める」としている。楽天ユニオンは1月中に公正取引委員会に提出する嘆願書の署名集めに乗り出した。優越的地位の乱用は、影響力の大きい企業が取引の多い中小企業に対して、自社の利益を優先して製品の大幅な値下げなどを迫るケースが該当する。一方、商業施設の運営者が、地価の上昇を理由にテナント料を引き上げることなどは、正当の理由がありとして認められている。楽天は「利用者の増加は出店者の売上増につながるので、行き過ぎた要求には当たらない」との立場だ。
公取委が昨年10月にまとめた報告書で、プラットフォーマーによる一方的な規約変更などを問題視した。公取委の実態調査では、楽天について契約条件を「一方的に変更された」と訴えた取引先の割合が9割超に上った。アマゾン(7割)、ヤフー(5割)を大きく上回っている。「契約した時と条件が変わるのはおかしい」という出店者側の主張を公取委がどう判断するか。「3月18日に見切り発車したら、楽天は墓穴を掘る」(関係者)との見立てもある。20年は楽天にとって大変な年になる。
三木谷社長は1月6日、携帯電話事業について「4月からサービスインする」と初めて本格参入の時期を明言した。これまでは「春までのできるだけ早い時期」と述べるにとどめていた。三木谷社長は携帯電話事業を手がける子会社、楽天モバイルの代表取締役会長だったが、6日付で新たに最高経営責任者(CEO)職を設けて兼務した。加えて楽天の最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)が楽天モバイルの部署責任者を兼務する体制に変えた。携帯電話事業にグループの総力戦で臨む。