歴史的な再編劇がついに動き出した。ホンダと日産自動車との経営統合だ。
12月18日未明に日本経済新聞が「統合へ」と報じると、報道各社が次々と続いた。両社も同日の朝(8時40分)、「将来的な協業について、報道の内容を含めさまざまな検討を行っていますが、現在決まっていることはありません」「適切な時期に、ステークホルダーの皆様にお知らせします」とほぼ同じ内容のコメントを出した。
関係者によれば、両社は持ち株会社の設立による経営統合を検討しており、12月23日に統合に向けた協議に入るとみられる。
両社は今年3月、EV(電気自動車)やソフトウェアに関連する領域での協業に向けた包括的な覚書を締結。8月には協業の5つの領域を発表するとともに、三菱自動車が合流し3社で戦略提携の検討を進める方針を示していた。3社合計で年間販売台数は830万台。スケールメリットを調達面などに生かすほか、莫大なカネが必要な車載ソフトウェアやEV部品開発などの投資負担を抑えることを狙ったものだ。
8月の会見では、資本提携について問われたホンダの三部敏宏社長が「現時点で資本関係という話はしておりません。ただ、可能性としては否定するものではない」と語った。実際、さまざまな検討は行われたようだが、「8月の発表後、協業に向けた個別の話し合いもほとんどストップしていた」(日産関係者)という。
影を落としたのは、日産の深刻な経営不振だ。
もともと8月の会見の1週間前に発表した2024年4~6月期の営業利益はわずか10億円、前年同期比99%の減益だった。さらに11月に開示した2024年4~9月期は、営業利益が前年同期比9割減、自動車事業のフリーキャッシュフローは4483億円のマイナスに転落した。
日産の内田誠社長は生産能力の2割削減や9000人の人員リストラをはじめとした再建策を示したものの、仏ルノーから信託会社に移されていた自社株買いや巨額の社債償還などが迫る中、資金繰りの悪化が懸念されるようになった。
11月中旬にはアクティビスト(モノ言う投資家)が日産の大株主に浮上していることも判明した。一部でホンダによる日産救済論がささやかれる中、ホンダ幹部は「3社提携は規模を求めるのが目的。それ以上でもそれ以下でもない」と、日産救済の見方に予防線を張っていた。
ここにきて急転直下、経営統合の話が浮上したのは、ホンダに対抗馬が出現したためだ。EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が日産に対して出資の提案を行ったことが関係しているという。
ホンハイ関係者は「ホンハイ側は日産がリストラを進めるにあたり、工場設備を買収するなど資産だけを買い取ることも検討したもようだが、やるなら経営権の取得を目指すとなった。出資による経営への関与を日産側に打診している」と明かす。
交渉の状況を知る関係者は「(資本提携の話が表に出せるようになるにしても)来年の1月中旬か下旬のはずだった。ホンハイからの望まない提案で日産が焦った」と語る。
スマートフォンなどの受託製造で急拡大を遂げたホンハイだが、2020年にEV開発プラットフォーム「MIH」を立ち上げて以来、EVの製造事業に参入。世界各地で自動車生産ラインを導入している。
ホンハイでEV事業のCSO(最高戦略責任者)を務めるのは日産出身の関潤氏だ。内田氏が日産の社長に就任した2019年12月、日産のナンバー3ポジションである副COO(最高執行責任者)に就いた。が、もともと社長の最有力候補だった関氏は、直後に日本電産(現ニデック)に電撃移籍。2023年1月にホンハイへ転籍した。