今やすっかり年末の風物詩となったマンガランキング本の最新版『このマンガがすごい!2025』(宝島社)が12月13日に発売される。栄えある1位は[オトコ編]が『君と宇宙を歩くために』(泥ノ田犬彦/講談社/既刊3巻)、[オンナ編]が『環と周』(よしながふみ/集英社/全1巻)となった。
『君と宇宙を歩くために』は、異質なようで共通点のある二人が教室で出会うところから始まる。ヤンキー高校生・小林は勉強ができずバイトでもミスばかり。そこに現れたのが、挙動不審な転校生・宇野だった。声が大きく受け答えもヘン。何かをびっしり書いたノートを常に持ち歩いている。
しかしそれは苦手なことを何とかして補おうとする彼なりの工夫だった。明示はされないが宇野も小林も発達障害の持ち主だろう。宇野と出会ったことで小林も自身の特性に向き合えるようになる。ひとつの成功体験で喜びに浸る小林の姿には思わず感涙。マンガ大賞2024の大賞受賞作でもあり、まさに今の時代に読まれるべき物語だ。
『環と周』は、『大奥』『きのう何食べた?』などで知られるよしながふみの連作短編集。タイトルどおり、「環(たまき)」と「周(あまね)」の名を持つ二人が時代や性別を超えて何度もめぐり会う。
現代では中学生の娘を持つ夫婦として。明治の世では女学校の同級生。70年代には独身女性と同じアパートに住む少年。戦後の復員兵と元上官。江戸時代には幼なじみでありながら仇敵として再会した男と女。1話ごとに状況や関係性は違えど、分かちがたい因縁で結ばれた二人の多様な愛の変奏曲に息を呑む。
単行本描き下ろしのエピローグできれいに円環が閉じる構成にも感嘆。『大奥』や『きのう何食べた?』のような長期連載作と違って、単巻ものなので手に取りやすい。よしながふみ作品への入り口としても好適だ。
2位以下にも、今の時代を反映した作品が多くランクインしている。この生きづらい社会で、いかに自由に心健やかに生きるかを描いた[オトコ編]5位の『路傍のフジイ』(鍋倉夫/小学館/既刊3巻)、8位の『この世は戦う価値がある』(こだまはつみ/小学館/既刊3巻)は、特にビジネスパーソンに刺さるだろう。
また、[オンナ編]3位の『ボールアンドチェイン』(南Q太/マガジンハウス/既刊2巻)、4位の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子/ぶんか社/既刊2巻)、7位の『スルーロマンス』(冬野梅子/講談社/全5巻)は、多様性やジェンダー格差の問題を考える貴重な手がかりとなる。
今回の『このマンガがすごい!2025』は、2005年末刊行の第1弾『このマンガがすごい!2006』から数えてちょうど20年目。マンガの年間ランキング本の歴史を振り返れば、1996年の『このマンガがえらい!』(宝島社)、2001年の『このマンガにハマる!』(二見書房)、2004年の『このマンガを読め!2005』(フリースタイル)といった先行例がある。それ以前にもマンガ情報誌「ぱふ」(雑草社)の読者投票による年間ベストテン特集などがあった。
つまり、『このマンガがすごい!』が元祖ではない。1年早く始まった『このマンガを読め!』は雑誌「フリースタイル」の年末恒例特集として継続している。しかし、現在の一般読者の認知度や市場への影響力においては、『このマンガがすごい!』と2008年創設の「マンガ大賞」が双璧と言えよう。