グーグルがChromeを売却したらどうなるのか

グーグルはアップルのiPhone / iPad / Macの標準ブラウザーであるSafariや、PCユーザーに知名度の高いFirefoxといったブラウザーの標準検索エンジンにもなっている。これは、グーグルが合計数十億ドルともいわれる金額を、アップルやFirefoxの開発元であるMozilla財団に支払い、その権利を購入しているからだ。

グーグルがChromeブラウザーだけでなく、社外製ブラウザーでも標準の検索エンジンになれば、その分グーグルにユーザーに関するさまざまな情報が集まる。例えばユーザーがアクセスしてきたIPアドレスからは、そのユーザーの所在地がどこかで(大まかに)どんなインターネットプロバイダーを利用しているのかがわかる。

また、検索用として入力された文言や内容を分析すれば、ユーザーの性別やおおよその年齢、趣味嗜好、収入レベルなども推測可能だ。さらには、ある検索ワードに関して表示した検索結果の一覧から、どのリンクをユーザーが最も多く選んでいるかを追跡することで、世の中のトレンドを把握し検索結果の表示順を調整、さらなるアクセス増加につなげるといったことができる。

こうして収集されたユーザー情報は、グーグルが展開する広告ネットワークで、ターゲティング広告の精度を高めるために使用される。広告主となる企業らはグーグルを通じて、よりエンゲージメントが高くなることが考えられるユーザー層にめがけて広告を配信できるのだ。

iPhone?Chrome
iPhoneにもChromeアプリがある(画像:© 2024 Bloomberg Finance LP)

つまりグーグルはユーザーがインターネットを使う際に最も重要な機能である検索サービスをほぼ支配することで、多くの消費者に広告をリーチしたい世界中の企業から広告費をかき集める仕組みを築き上げているのだ。

Statcounterの別の集計では、全世界のインターネット検索の約90%を占めるのが、グーグル検索だと報告されている。

インターネット全体から収益を生み出すグーグルの構造は、もはやほかの企業が突き崩すことは難しいだろう。司法省の弁護士は「現在のような検索と検索テキストに応じた広告の市場に競争を取り戻すには、グーグルが長期にわたり抑圧してきた競争プロセスを再び活性化させる必要がある」と述べている。

グーグルの反論

グーグルは司法省によるChrome事業の売却を含む要求が、アメリカの人々や世界に対するアメリカのテクノロジー業界の優位性を揺るがしかねないものだと反論している。

同社の最高法務責任者ケント・ウォーカー氏は「司法省の乱暴な要求は、裁判所の判断をはるかに超えている。それは、人々が愛し、日常生活で役立つと思う、検索以外のグーグル製品の範囲を壊すだろう」と述べている。

そしてウォーカー氏はさらに、この要求が通った場合「人々がグーグル検索を利用しにくくなり、AI競争におけるグーグルの展望も損なわれることになる」、「ユーザーのセキュリティやプライバシーが危険にさらされ、ChromeやAndroidの品質を引き下げさせ、グーグル検索に依存しているFirefoxブラウザーなどのサービスにも打撃となるだろう」と主張し「司法省のやり方は、前例のない政府の越権行為であり、アメリカの消費者、開発者、中小企業にまで害を及ぼすだろう」と警告した。

グーグルは12月に、司法省の要求に対する反論書類を裁判所に提出する予定とされている。

Bloombergによると、もし裁判所が司法省の要求を支持してグーグルにChromeの売却を命じた場合、その事業の価値は150億~200億ドルになると推定される。だが、それ以上に疑問となるのは、同社から分割されたChromeがどのように扱われるのかだ。