「ソニーKADOKAWA連合」、アニメ業界に走る激震

さらなる打ち手を迫られる東宝

これら制作関連のM&A以上に注視すべきは、10月に発表されたアメリカのGKIDS買収だ。同社は北米を中心に、スタジオジブリ作品などのアニメ配給を担ってきた。

東宝の松岡宏泰社長は10月16日の決算説明会で、「日本のアニメ関係者が海外で作品を展開する際に、GKIDS、あるいは東宝を信頼し、架け橋のような存在になれることを目標にしたい」と語った。これはソニー傘下のクランチロールが担ってきた役割を、東宝も映画配給で果たしていくという宣言にほかならない。

東宝がアニメ化を手がけた「ハイキュー!!」
東宝が劇場版アニメを企画・製作した「ハイキュー!!」。週刊少年ジャンプに掲載された漫画が原作だ(記者撮影)

そんな東宝も悩みの種はIPの創出だ。これを打ち破るべく、8月にはオリジナルIPの企画開発と国内外における活用を目的に、バンダイナムコホールディングスと資本業務提携を締結。ゲームからアニメ、玩具までIP展開の総合力に長ける同社と手を組み、ソニーに先手を打ったばかりだった。

以前、ある映画大手の幹部は東宝の戦略について、「売り物は出ていないが、ゆくゆくは(ソニーが有する)動画配信機能もM&Aしたいのではないか」と読み解いていた。ソニーがKADOKAWAを買収してしまえば、東宝は総合力でいっそう水をあけられるため、こういった大胆な打ち手を本格的に迫られるかもしれない。

ソニーも、KADOKAWAを買えば万事解決というわけではない。

集英社のジャンプ系IPが爆発的なヒットをたたき出すのに対し、KADOKAWAは中規模ヒットのIPをコツコツと積み重ねるスタイルが特徴的だ。実際、「集英社や講談社の原作が強いので、別に(ソニーにKADOKAWAが買われても)よいのではないか」(前出のアニメ会社幹部)と冷めた意見も聞かれる。

アニメ業界全体の制作体制強化が不可欠

アニメ人気上昇によるスタジオの需給逼迫が深刻さを増す中、ソニーグループ内外の限られた制作リソースを、どのIPのアニメ化に費やせば収益を最大化できるかが焦点となる。その際、KADOKAWAのライトノベルなどよりも、今まで通りのペースで集英社や講談社の作品をアニメ化したほうが合理的となれば、M&Aによるシナジーが限定的になりかねない。

シナジーの最大化を図るには、社外のスタジオも含めたアニメ業界全体の制作体制を強化しなくてはならない。その際には、ソニーが5月の経営方針説明会で明かした海外でのアニメクリエーター育成計画やアニメ制作専用のソフトウェア開発など、アニメ産業支援の加速がカギとなるだろう。

ダイナミックに札束が飛び交い、目まぐるしく情勢が変化する日本のアニメ産業。ビッグネーム同士の提携の行方を、あらゆる業界関係者が固唾を呑んで見守ることになりそうだ。