この点、絵が動かない漫画や活字中心のライトノベルの制作費用はアニメ・ゲームと比べ圧倒的に低く、大量にIPを創出できる。数を撃てるぶん、人気IPの絶対量が積み重なる構造だ。
アニプレックスの代表作となった「鬼滅の刃」から、主題歌が話題を呼んだ「マッシュル-MASHLE-」、「ぼっち・ざ・ろっく!」、「WIND BREAKER」まで、直近でも人気作の多くが漫画原作アニメであるのは、こうした背景に起因している。
有力作品の製作パートナーの座を獲得できるよう、アニメプロデューサーは、集英社の「週刊少年ジャンプ」を筆頭とする漫画雑誌の編集部との関係性構築にいそしむ。アニメの制作物から宣伝、2次利用に至るまで、編集部の先にいる原作作家の意向を尊重することも欠かせず、プロデュースの自由度には制限がかかる。
一方で出版もヒットビジネスであり、大ヒット原作が安定供給される保証はどこにもない。ソニーに限らず、アニメ事業を展開する企業にとって、外部の出版社頼りという構図は無視できないリスク要因となっていた。
そんな状況も、KADOKAWAを買収してしまえば一転する。
同社は小学館・集英社を擁する一ツ橋グループ、講談社率いる音羽グループと並ぶ、出版3大グループの一角だ。ライトノベルの有力レーベルや漫画出版機能を有し、2024年3月期のIP創出点数は5900に上る。質の面でも、ライトノベルから漫画、アニメとグループ内でメディアミックスを推し進めた「Re:ゼロから始める異世界生活」を筆頭に、「ダンジョン飯」、「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」など、有力IPをコンスタントに輩出してきた。
同時にアニプレックスや東宝などと並ぶ国内有数のアニメ企画・製作会社でもあり、直近では集英社原作の「【推しの子】」をヒットさせた。ただ、あるKADOKAWAのアニメ部門社員は「有力なKADOKAWA原作のアニメ化に際しては、(社外のアニメ企画・製作会社よりも)社内のアニメ部門に若干の優先権があり、KADOKAWAアニメ部門の強みとなっている」と明かす。
買収が実現すれば、KADOKAWAのアニメ部門と同様に、アニプレックスがKADOKAWAの有力原作を安定的に確保するというスキームもみえてくる。「ソニーと連携すれば、原作からアニメの世界配信までが完結してしまう。ダイナミックすぎて現実味がない」(前出のKADOKAWA社員)。
「6000億円規模というM&Aはわれわれにはできない。会社の首脳級も『ソニーにやられた』と頭を抱えているようだ」。あるアニメ会社の幹部がそう打ち明けるように、ソニーがKADOKAWAを傘下に収めれば、業界勢力図が大きく塗り替わる可能性も出てくる。
直近、アニメ業界で急速に総合力を高めてきた“台風の目”は、東宝だった。
国内売上高トップの映画館「TOHOシネマズ」を有し、企画・製作を担ったアニメの劇場版を精力的に配給できる強みを武器に、「僕のヒーローアカデミア」や「ハイキュー!!」、「呪術廻戦」、「SPY×FAMILY」など、アニプレックスをしのぐ勢いでジャンプ系IPをアニメ化。いずれも原作に見合う大ヒットとなった。
怒涛のM&Aも見逃せない。2023年11月にタイのアニメスタジオと資本業務提携すると、今年6月には「ダンダダン」などを手がける国内の有力アニメスタジオ・サイエンスSARUを買収。10月には「君の名は。」などの新海誠監督作品を扱うコミックス・ウェーブ・フィルム株も6.0%取得した。