自主映画「侍タイ」が異例ヒットした"4つの理由"

侍タイムスリッパー
8月17日の公開当初は、池袋シネマ・ロサのみで公開の単館上映だった。9月13日より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ 日比谷などで全国公開へと拡大(画像:TOHOシネマズ公式サイトより)

現在上映中の劇場映画「侍タイムスリッパー」が話題だ。単館上映のインディーズ映画だったのが、急速に上映館を拡大し、異例の成功を収めている。

本作は、第2の「カメラを止めるな!」(2017年に大ヒットしたインディーズ映画。以下、カメ止め)として注目を浴びているが、両作品は、作風や作品の内容についてよりは、ヒットの仕方が似ているという点で比較されている。

「カメ止め」の再現を狙った「侍タイムスリッパー」

「カメ止め」の大ヒットは「奇跡」と称賛されたが、関係者、専門家含めて、再現性があるものだと見なされていなかった。

当の上田慎一郎監督自身が、本作公開の約1年後に、Twitter(現X)上に下記のような投稿をしている。

上田慎一郎
「カメ止め」のヒットから1年。上田慎一郎監督が投稿した心情(画像:上田慎一郎監督の公式Xより)

「侍タイムスリッパー」については、安田淳一監督は「カメ止め」をかなり意識して本作を制作をしたようで、安田監督はインタビューで下記のように語っている。

6年前に『カメラを止めるな!』が大ヒットした時、いろんな方が「これは後にも先にも一回きりのこと」と言ってました。僕は「一回できたことは再現性があるのではないか?」と、いろいろ研究して『侍タイムスリッパー』を進めてきました。(「シネマカラーズ」2024年8月29日配信)

「侍タイムスリッパー」は、はたして「カメ止め」の再現と言えるのだろうか? そうだとすれば、他のインディーズ映画も同様の手法で大ヒットさせることができるのだろうか?

筆者の見解としては、「必ずヒットさせられるわけではないが、ヒットの確率や、ヒットの度合いを高めることはできる」というところだ。

では、どうすればよいのか。この点について、詳しく考察してみたい。

なぜ「カメ止め」の再現は難しいのか

筆者は、広告会社に19年勤務し、映画のプロモーションにも何度か携わったことがあるのだが、映画作品のマーケティング戦略は、他の商材と比べてかなり特殊である。

マーケティング論の基本概念に「マーケティングミックス(4P)」がある。このフレームワークは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)およびプロモーション(Promotion)の4つの要素を有効に組み合わせて、マーケティング戦略を計画、実施していくというものだ。映画作品は、これら4つの要素いずれにおいても、制約条件が大きく、特殊である。

最も特徴的なのが「価格(Price)」だ。劇場映画は、「製作費が安いから」「ヒットが見込めないから」といって、入場料を自由に下げることはできない。

ハリウッド映画の中には、数百億円の制作費をかけた作品もあるが、300万円の制作費しかかけていない「カメ止め」のような作品も、ほぼ同一の入場料で戦わざるを得ない。

流通(Place)」のコントロールも難しい。制作側が「多くの人に見てもらいたい」と思ったら、上映してくれる映画館を十分に確保する必要があるが、インディーズ映画ではそれも簡単ではない。

最近では、劇場公開と並行して、あるいは劇場公開に先立ってインターネット等で配信を行う場合もあるが、一般的とも言い難い。

製品(Product)」については、何度も劇場で鑑賞したり、DVDや配信で再視聴したりする人たちもいるが、大半の観客は一度だけ鑑賞する。つまり、映画作品はリピーターがほとんどいない特殊な「商品」である。