冒頭で紹介した、上田監督のツイートは正しいが、「再現性がある」という安田監督の主張も正しい。低予算のインディーズ映画ならではの戦い方は、一度成功した後では通用しないということでもあるのだ。
劇場映画は、入場料、すなわち「売り値」を自由に設定できないと述べたが、価格が変えられないのであれば、顧客側の「支払う意義」を創出する必要がある。
『侍タイムスリッパー』は、3年間かけて制作されたが、安田監督は、X上に下記の投稿をしている。
「カメ止め」の上田監督や出演者、関係者は、制作当時のお金のなさ、売れるための草の根的な努力、映画に対する情熱を、SNSやインタビューで語り続けていた。
映画を鑑賞する人たちは、作品の鑑賞のためだけにお金を払っていたのではなく、彼らを応援するためにお金を払っていたとも言える。
高収入を得ているハリウッドの有名監督や有名俳優に対して、「この人たちが作品を作り続けるために、お金を払う」という意識はなかなか生まれづらい。
さらに言えば、「カメ止め」も「侍タイムスリッパー」も、映画をテーマにした映画であり、映画愛に溢れた作品である。
同系統の名作映画に「ニュー・シネマ・パラダイス」があるが、本作を愛する映画ファンは数多い。作品が優れているのはもちろんだが、映画愛に溢れた作品であることも大きい。
「カメ止め」も「侍タイムスリッパー」も、観客は作品のフィクションの世界だけでなく、その裏側にあるリアルなドラマにも心を動かされて劇場に足を運び、映画を見て感動するのだ。
逆に言えば、作り手には、フィクションとノンフィクションの両方を演出することが求められると言えるだろう。
両作の成功に学んだ作り手が、新たなヒットを生み出し、成功を手にすることを期待したい。