こうした制約条件があるため、インディーズ映画を大ヒットさせることは、至難の業なのだ。だから、「カメ止め」が「奇跡」と称賛されつつも、「再現するのは難しい」と言われてきた。逆に言えば、制約条件を打破する、あるいは制約条件を前提とした打開策が見いだせれば、ヒットを生み出すことができるとも言える。
「侍タイムスリッパー」と「カメ止め」がヒットを生み出した共通要素として、下記の点が挙げられる。
「作品の質が高い」というのは当たり前のことなのだが、メジャーな作品の中には、観客の評価が低かったにもかかわらず、ヒットした事例が少なからずある(あえて作品名は挙げないが)。
「面白ければヒットする」というのも間違いなのだが、インディーズ映画の場合は、これは必須条件だ。単純に面白いだけではなく、「口コミしたくなる」「人に薦めたくなる」「観客の期待を上回る」「映画賞を受賞する」「専門家・有名人・インフルエンサーが推奨する」といった要素がポイントになる。
「カメ止め」や「侍タイムスリッパー」は、ヒットする前段階で、
といった現象が起きたという共通点がある。
これらは、観客動員数を増やすことはもちろん、上映館が拡大したり、さまざまなメディアで紹介されて多くの人が作品を知るという、次のステップに進むうえで、重要なことである。
レビューサイトでの評価を見ると、「侍タイムスリッパー」は、映画.comで4.3、Filmarksで4.1(いずれも2024年9月27日現在)と評価は軒並み高い。現在の「カメ止め」の評価は特別に高いわけではないが、公開時はかなり高い評価がついていた。
映画レビューサイトの評価は、客観的なように見えて、そうとは限らない。「期待したほどではなかった」と低い評価がつくこともあれば、「期待せずに見たら面白かった」と高い評価がつくこともある。
インディーズ映画は後者の評価が働きやすくなるし、まだヒットしていない映画であれば、応援の意味も込めて高い評価をつける人も少なくない。SNSの口コミも同様だ。
逆に、こうした映画は、ヒットするにしたがって、応援の口コミは減っていくし、批判的なコメントも増えてくる。
「カメ止め」の場合は、公開から約2カ月経った大ヒット中に、盗作疑惑の話題が浮上している。ちなみに、「カメ止め」に関してTwitter(現X)での話題量が最も多かったのは、盗作疑惑の報道が出た時である。
さらに言えば、「カメ止め」の3年後に上田慎一郎氏が監督・脚本をつとめたアニメ映画「100日間生きたワニ」は炎上し、レビューサイトでも低評価が相次ぎ、興行的にも成功したとは言い難い。
これは、原作マンガ「100日後に死ぬワニ」が炎上(感動を呼んだ最終回の直後に商業的なメディア展開を発表し、「最初から仕込みだったのか」などと炎上)したことがきっかけとなって起きた現象で、上田監督や作品に瑕疵(かし)があったわけではないのだが、「カメ止め」が大成功していなければ、ここまで叩かれることもなかったと思われる。