トランプ再選なら窮地「ウクライナ」の行く末

もっとも、歴史的に見れば、ウクライナ住民はつねに外国政府の統治下にあった。ポーランド、ロシア、オーストリア帝国などである。ソ連時代には一種の自治を享受するに至ったが、最終的に国家として独立したのは、実質的にはソ連崩壊後、すなわち20世紀末である。それから30年余りを経ただけの現在、一部の人々がロシアを選び、残りの人々がヨーロッパを選んだとしても、驚くにはあたらないのかもしれない。

プーチンとの交渉の可能性について言及

アメリカの大統領選挙の趨勢を見てか、ウクライナ世論の動向を見てか、イギリスのテレビ局に対して、ゼレンスキーはプーチンとの交渉の可能性について言及した。ゼレンスキー大統領としては、国際社会を巻き込んで多数対ロシアで交渉を進めたい考えに変わりはないようだが、今となっては、交渉過程への諸外国の関与をロシアは受け入れないだろう。

また、アメリカをはじめとする他国の支援を当てにして自国の安全を守ろうとする姿勢を最も嫌うのがトランプである。NATOなどの同盟国に対して、自己負担率を上げるよう強く求めてきたのがその証だ。仮にトランプが大統領に返り咲けば、ウクライナの他国頼みの姿勢に厳しい目を向けることは容易に想像できる。

そもそも、プーチンがゼレンスキーとの交渉を受け入れるかははなはだ疑問である。ゼレンスキーはプーチンとの交渉を法的に禁じるというパフォーマンスを過去に行っているのだ。しかし現実には、ゼレンスキーにはプーチン以外の交渉相手は存在しない。それを考えれば、パフォーマンス以外のなにものでもない、完全な政治的悪手であった。

さらに、プーチンは、ゼレンスキーにはウクライナ憲法上正当な大統領権限がないとしている。ウクライナ憲法は大統領の任期を選挙なしで延長することを認めていないにもかかわらず、ゼレンスキーは大統領選挙を実施しなかったからである(大統領任期は5月20日に終了)。

もちろん、ロシアの攻撃を受け、一部地域を占領されている状況で選挙を実施するのが容易でないという事情はあろう。しかしながら、そもそも、ゼレンスキー政権が国民の信任を得ているのかどうかについては疑問がある。

先の世論調査もそうだが、かつてはウクライナの有力政治家であるクリチコ・キエフ市長ですら、ゼレンスキー政権のやり方に疑問を呈し、「ゼレンスキーはあまりにも大きな権力を自分のオフィスに集中させているため、議会は意義を失っている」などと述べているのだ。

プーチンが示している交渉条件は?

仮に、交渉が行われるとして、プーチンが示している交渉条件は以下のとおりである。

(1)5つの地域(クリミア、ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポロジエ)をロシア地域として認めること
(2)ウクライナの中立と非核化
(3)非軍事化と非ナチ化
(4)対露制裁の撤廃

なお、さらに交渉の前提として、5つの地域から軍を撤退させること、NATO非加盟を公式に宣言することを条件としている。

これらの条件は、ヘルソンとザポロジエが増えたことをのぞけば、基本的に紛争当初のロシアの主張から変わっていない。ただし、交渉開始の時期が伸びれば伸びるほど、ウクライナにとっての条件はますます厳しくなるだろうとロシア側は言っている。具体的には、現在ロシア側が前進しているハルキウ州が思い浮かぶ。

ただ、ロシアのペスコフ大統領報道官は、和平プロセスに移行するための条件は整っていないとし、ロシアにとっての最重要事項は「特別軍事作戦」の目的を達成することであり、それを軍事的に実現することは十分可能だとの認識を示している。「特別軍事作戦」の目的とは、ウクライナの中立化及び非軍事化、非ナチ化、そしてドンバス住民の保護である。