私がとあるベンチャー企業に転職したときのこと。同時期に入社してきた、Aさん(43歳・女性)という社員がいた。私が人事部長、Aさんが広報部長という同列の立場で、まだ創業したばかりのベンチャーを盛り立てていく、“同志”のような存在でもあった。
社内に不穏な空気が立ち込めたのは、Aさんが入社して4カ月後のことだった。
新規事業の大々的なプロモーションをするにあたり、広報部長のAさんが中心となって企画を立ち上げることになったのだが、遅々として進まないのだ。
次第に広報部の部下たちから、「Aさんに企画について投げかけてもレスポンスが遅く、しかも曖昧な答えしか返ってこない」「会議でもなかなか意思決定できず、議題がたびたび次回へ持ち越しになる」と、愚痴が漏れ聞こえるようになった。
少し厄介なのは、Aさんが人当たりよく、仕事以外で関わる分には何の問題もないことだった。むしろ朗らかで柔和な接し方は好感が持てるほど。それだけに愚痴を漏らす社員も、「悪い人じゃないんですけどね」が枕詞(まくらことば)になっていた。
そのうえ、経歴的にも申し分ない。有名私立大卒で、英語はネイティブ並みに堪能。数々の大手外資系企業で広報マネージャーとして積んできた実績もある。
そんな人柄も経歴も優れている彼女がなぜ、社内のボトルネックになってしまったのか?
それはAさんの過去の仕事の進め方と、今の仕事で求められているやり方に大きな乖離(かいり)があるからではないかと推測した。
おそらく、これまで勤めてきた外資系企業では海外本社の意向が強く、管理職といえども、自身で意思決定する場面が少なかったのだろう。それは、常に担当役員の意向をうかがう、「待ちの姿勢」からも想像がついた。
日に日に業務の滞りは顕著になり、部下との摩擦も増えるように。本人も居づらくなったのか、1年ほどで退職。管理職の裁量権が大きく、スピーディな意思決定が求められるベンチャーにはハマらなかったようだ。
こうした本人の仕事の進め方やスタイルも、入社前の面接で把握できればいいのだが、そこまでつかみきれないことが多い。
なぜなら転職を複数回、経験している応募者の中には、面接での受け答えが巧みな人も少なくないからだ。
面接上級者ともなれば、応募先企業の職務内容に合わせて、変幻自在に自身の経験値と重ね合わせたアピールができるし、どんな変化球の質問にも小気味よく返答してくれる。
「まさにうちの会社にぴったりだ!」と即採用したくなるのだが、Aさんのケースのようにお互いにとって不幸なミスマッチを起こさないためにも、事前の「リファレンスチェック」は必要だと考えている。
リファレンスチェックとは、応募者の職務経歴や実績に虚偽がないかどうか、本人の同意を得たうえで前職の上司や同僚、部下などに確認できる仕組みのこと。