男子校の「残念な実態」描く漫画が注目される背景

おおた:あのシーンを読んでいて、「あのときもうちょっと押せば良かったのかな?」なんて、つい30年以上も昔の自分に重ねちゃってる自分がおかしかったです。

凹沢:でもやっぱり男子校って憧れちゃいます。みんなすごく楽しそうなんですよ。みんな自分の趣味みたいなものを極めてますよね。モンゴル語をやってますとかカエルの研究をしてますとか。

辛酸:武蔵でヤギの鳴き声を解析するひとも良かったですね。

おおた:異性のグループがいない環境だからこそ、異性からどう見られるかということを度外視で、自分の好きなことに打ち込める。

辛酸:それは女子校も同じかもしれないです。

凹沢:学校のヒエラルキーって、勉強とスポーツとモテで決まるじゃないですか。でも男子校だとモテの要素がない。そのおかげですごく自由になれるんだと思います。

辛酸:女子校だとオシャレという観点もありました。

おおた:それは女子学院に制服がないからじゃないですか?

凹沢:麻布も制服はないですけど、文化祭とか行くと、別にそんなオシャレじゃないですよね。灘の子たちも言ってたんですけど、私服校のはずなのに、それぞれ同じ服しか着てこないから、私服が制服化している。

辛酸:筑駒も制服ありませんけど、同じです。お母さんが買ったやつ、みたいな。でも鉄緑会(東大受験指導の専門塾)の日だけオシャレするって、「かし恋」の取材ページでも書かれてましたよね。

凹沢:それは実際に筑駒の生徒に教えてもらいました。みんなを観察したら気づいちゃったって。別冊マーガレットには毎号取材ページがついていますが、第1巻には武蔵、聖光、暁星、浅野、筑駒が収録されています。

辛酸:あの取材ページは男子校のいまがよくわかりますね。

おおた:男子校って、全国の高校の中で2%くらいしかないから、ほとんどのひとが実態を知らない。

凹沢:もともと、連載が始まる1年前に共学校の男子3人組を主人公にした読み切り漫画を描いたんです。でも少女漫画誌の「別冊マーガレット」で連載をするなら、男子校という設定にしたほうが秘密の花園を覗いている気分になれて面白いはずだと編集長からアドバイスを受けて、「かし恋」ができました。

おおた:秘密の花園を覗いてみたら、痛々しい世界だった、みたいな。

辛酸:主人公の3人とも、かっこつけてるのに、女の子とお付き合いすらしたことがないんですよね。

おおた:男子校出身者のあるあるだと、共学出身者の中高時代の恋バナを聞かされたときに、「オレ、男子校だったからそういうのなくてさ」と返すやつ。ていうかオマエ、共学校に行っててもきっとカノジョできてないから、みたいな。

辛酸:男子校だったのを言い訳にできますよね。

おおた:言い訳にしている自覚があるならましなんですけど、共学校に行ってたら自分もモテたはずだと勘違いしてるのはヤバイ。

部活の試合や行事で……

おおた:息子を男子校に通わせているお父さんから聞いた話ですけど、お母さんたちが部活の試合やら行事やらで「○○くん、イケメン!」ってはしゃいでいるらしいんですよ。

凹沢:それもネタになるかも。お母さんたちに「イケメン」と言われたい男子校生徒、みたいな。でも、男女逆だったらアウトですよね。女子校の運動会で、お父さんたちが「○○ちゃん、かわいい」とか手を振ってたら……。

辛酸:完全アウトで、出禁ですね。

おおた:部活の試合や運動会で、いくらかっこいい男子がいたとしても、そこに女子もいっしょにいたら、さすがにお母さんたちもはしゃげないじゃないですか。それができちゃうのも男子校の特殊性かもしれないですね。

凹沢:お母さんたちからしたら、体育祭なんてまさに秘密の花園に足を踏み入れてる感覚で、はしゃいじゃうのかもしれないですね。自分の息子が名門校に受かったおかげで、特権的に覗けてるわけで。