こうした背景もあり、NTTは澤田純・現会長が社長在任中(2018年~2022年)にドコモの完全子会社化や、NTTデータとNTTリミテッド(NTTの海外事業会社)統合などの大がかりなグループ再編を次々と実行したが、NTT本体とNTT東西には手を付けていなかった。
では、なぜ競合はドコモとNTT東西の再編を恐れるのか。
NTT東西は、電電公社から受け継いだ光ファイバー網や通信局舎などの設備を有している。国内でモバイル通信や、FTTH(光回線)などの固定ブロードバンドサービスを展開するうえでは、競合他社もNTT東西のインフラを利用せざるをえないケースが大半を占めている。
現在は電気通信事業法の規定の下、モバイル通信などを展開するドコモも、競合他社と同じ金額や条件で、NTT東西の通信サービスや設備を利用している。
しかしNTT法の足かせが消えて両社が仮に一体化してしまえば、NTT東西とドコモの事業は社内取引になるため、監視の目が及びにくくなる。他キャリアより有利な条件で取引を進めて、公正競争が阻害されるのではとの不安が渦巻いているのだ。
こうした競合の懸念についてNTTの島田社長は10月19日の会見で、「ドコモと東西を統合する考えはまったくない」と一蹴。さらに「(NTT法を廃止する代わりに)電気通信事業法の禁止行為の中に(ドコモと東西の統合を)書いてもらってもかまわない」とも発言した。
大揉めしている議論の決着は、いつ付くのだろうか。
NTT法の見直しは自民党PTのほか、総務省の審議会で検討が進められている。総務省審議会は来夏に答申をとりまとめる予定だが、自民党は11月をメドに提言をまとめる方針で、それによって議論の方向性が定まる可能性が高い。競合キャリアが今、猛抗議を展開している理由もここにある。
自民党PTの小林鷹之事務局長は「11月に提言をとりまとめるスケジュールに変更はない」としつつ、「それまでにすべての論点について細かなスキームを決めることは難しいが、議員間で合意を得られているものもある。できるだけ(全体の)方向性を打ち出していきたい」と強調する。
今後の焦点は、競合各社の反対がどこまで影響を及ぼすか、だ。
PTの甘利明座長は8月末に開かれた第1回会合で、「NTT法廃止の可能性も含めて抜本的に見直す」と言及した一方、10月19日の会合では「国内の公平性確保と国際的な競争環境の確保の両方に向き合いたい」「各社の重い懸念を受け止めたい」などと語り、廃止への反対意見にも一定の配慮を示していた。
もっとも、小林事務局長は「議論はNTT法の廃止ありきではないが、必要な規制については、できる限り電気通信事業法など他の法律へ寄せていく流れにある」との見解を示す。競合の猛反対を押し切って廃止へと踏み込む可能性は、依然として残っているようだ。
今後は自民党内でPTの公式会合を開かずに、個別の調整などを経て11月中に提言を練り上げる予定だ。その内容次第で、国内の通信市場は大きな転換点を迎える可能性がある。