競合3キャリアが大反対!「NTT法見直し」の混迷

NTT法見直しに関する会見に登壇したソフトバンク、KDDI、楽天モバイルの社長ら
NTTと競合の3キャリアが、NTT法の見直しをめぐり熱い戦いを繰り広げている。写真は競合3社が開催した10月19日の会見(撮影:尾形文繁)

「国民の利益が損なわれるNTT法の廃止には絶対に反対だ。単純な廃止を強引に決めるとすれば、世論を無視したものとなる」

10月19日、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が共同で開いた記者会見。その壇上、KDDIの?橋誠社長は語気を強めた。

NTT法は1985年、NTTの前身となった日本電信電話公社(電電公社)民営化に伴い、NTTグループの事業範囲や守るべき責務などを定めるために制定された(詳細はこちら)。

政府内で、NTT法の見直しが俎上に上がったのは6月。同法は政府がNTT株の3分の1以上を保有することを義務づけている(2023年6月末時点の政府保有割合は34%強)。防衛財源確保の手段として政府保有株の売却が選択肢に上がったことを端緒に、法改正に向けた議論がスタートした。

その後、自民党が主導するかたちでNTT法廃止にまで踏み込んだ議論が一気に進む中、競合キャリアがそろって「待った」をかけた格好だ。

NTTも同時刻に会見を開催

3キャリアが冒頭の記者会見を開いた同日朝、自民党では「NTT法の在り方に関するプロジェクトチーム(PT)」が開催された。

会合にはNTTを含めた4キャリアの幹部が出席し、議員らへ意見を陳述した。競合キャリア側は一様に、研究開発成果の開示義務撤廃など時代に即した法律の一部改正は認めるが、廃止については反対という立場をとる。その場で述べた意見を、続けざまに会見で発信することで、世論を喚起しようという思惑があったようだ。

KDDIの?橋社長があえて「世論」という言葉を用いたのは、3キャリア以外にも多くの事業者から賛同を得られているとの自信からだ。同日、3キャリアは地方のケーブルテレビや自治体など180団体の連名で、NTT法廃止に反対する要望書を自民党と総務省に提出した。

NTTの島田明社長
競合キャリアの会見と同時刻、別の会場で開かれたNTTの会見に臨んだ島田明社長(編集部撮影)

反対姿勢を強める競合に対し、当のNTTも黙っていない。

3キャリア側の会見と同時刻に、近隣のホテルでNTTも会見を開催。島田明社長は「廃止ありきではないが、(時代に合わせた見直しによってNTT法が定める)責務がなくなれば、法律も当然必要なくなる」と主張し、NTT法廃止を望むスタンスを明確にした。

競合がこぞって法廃止に反対するのはなぜか。ここで、NTT法が定める内容について触れておきたい。

NTT法が対象とするのは、持ち株会社のNTTと、その100%子会社であるNTT東日本・NTT西日本(以下、NTT東西)の3社だ。具体的な責務・規制として、?僻地も含めた全国への固定電話網の提供、?研究開発成果の開示、?組織再編や事業計画策定における総務大臣の許認可取得、などが定められている。

NTTグループの主な組織図とNTT法の対象範囲

NTT法については「固定電話時代の遺物」(総務省関係者)との見方もある。キャリアの主戦場が固定電話から移動通信、さらにいえば非通信分野へと広がりつつある中、NTTが圧倒的な優位性を誇る固定通信網などの存在価値は相対的に薄らいでいる。そのため見直しの必要性はかねて指摘されていた。

一方、3キャリアが恐れているのは、法の廃止によってNTTグループの再編が進み、市場の支配力が強まることだ。とりわけ競合の懸念は、NTT東西とNTTドコモの合併にある。

東西とドコモの再編を恐れる理由

ドコモは、通信市場の公正競争を担保する「電気通信事業法」の規制対象ではあるものの、NTT法においては枠外の存在だ。他方、NTT東西はNTT法の対象のため、社名変更には法改正が必要なうえ、新たな事業計画を立てるにも総務大臣の認可を得ることが前提となる。