テイラー・スウィフト、ライブ映画空前ヒットの訳

それらのファンがコンサート会場にいるような雰囲気を楽しめるよう、スウィフトは、この映画を木曜から日曜にかけてしか上映しないとも決めている。普段、上映中は静かにしましょうというメッセージを送るAMCも、この映画に関しては、観客が一緒に歌ったり、踊ったり、ファンが声援を送ったりすることを許した。月曜の昼間など、劇場が半分しか埋まっていない時に観に行ってしまったら、そんなライブ感覚を味わえなくなってしまうから、あえて曜日を絞ったのだ。

そして、スウィフトには、興行収入の57%が入るようにもなっている。もし、通常のようにこの映画がスタジオによって製作されていたら、スタジオと劇場主が売り上げを折半し、スウィフトには事前に決められたギャラと、契約内容によっては売り上げのパーセンテージが支払われることになる。しかしインディーズとして自ら製作したおかげで、スウィフトは、スタジオの取り分を丸々手にできることになったのだ。

ミュージシャンが自分のコンサート映画をここまで仕切ったのは初めてのこと。スウィフトに抜かれるまでコンサート映画で史上最高のオープニング記録を誇っていた『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』はパラマウント、その次の記録を持つ『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』はソニーの製作配給だった。

売り上げの43%を受け取る劇場主にとっても、まるで悪い話ではない。ストライキで俳優たちが宣伝活動をできないことから、新作映画は盛り上がりに欠け、ストライキ開始ぎりぎりまで宣伝活動をできた『バービー』『オッペンハイマー』以降、大きなヒットに恵まれていない。そこへ、この夏まで誰も存在を知らなかったスウィフトのコンサート映画が突然にして現れ、彼女のファンをごっそりと送り込んでくれたのだ。彼らにしてみれば、スウィフトはまさに救世主である。

16歳でレコード会社と契約を結び、その翌年に初のアルバムをリリースして以来、スウィフトは2億枚以上のレコードを売り上げてきた。Spotifyで最もアクセスの多い女性シンガーでもある彼女は、若い世代に絶大な影響力を持つ。

マドンナがスウィフトをライバル視

マドンナも彼女を意識していて、今年体を壊して入院したのには33歳のスウィフトに負けないようなライブをやろうと頑張りすぎたせいもあると言われている。マドンナはひとつの時代を作ったアーティストだが、スウィフトは次の世代にとって同じ存在なのだ。

そして彼女は、歌姫であるだけでなく、なかなかのビジネスウーマンでもあったことを証明した。今年12月には、やはり大スターであるビヨンセが、同じように直接AMCと契約を結び、コンサート映画を後悔する予定だ。これらの女性たちは、古い常識にとらわれず、自分のビジネスを自分でコントロールする。彼女らによって、コンサート映画のあり方は変わっていくのだろうか。