テイラー・スウィフト、ライブ映画空前ヒットの訳

THE ERAS TOUR?テイラー・スウィフト
常識破りの手法でライブ映画を大ヒットさせたテイラー・スウィフト(写真:REX/アフロ)

テイラー・スウィフトの快進撃が止まらない。

今月13日に公開され、3日間で9280万ドルを売り上げてコンサート映画のジャンルで史上最高のオープニング成績を築いた『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』は、公開2週目の先週末も首位をキープ。売り上げは3200万ドルで、2位のレオナルド・ディカプリオ主演、マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2300万ドル)を余裕で制した

『キラーズ』は上映時間3時間半で回せる回数が限られるというハンディキャップがあるが、実は『THE ERAS TOUR』もほぼ3時間で、あまり変わりはない。また、『THE ERAS TOUR』の製作費は定かではないものの、コンサートを収録しただけなのでそれほどかかっているとは思えないのに対し、『キラーズ』には2億ドル(約300億円)の製作費が費やされている。利益率で言えばスウィフトの映画はダントツだ。

ライブコンサートの収入は約1500億円に?

さまざまな点で普通と違うこの映画、最終的にどこまで数字を伸ばすかは不明ながら、スウィフトがこれでまた大きく儲けるのは間違いない。この夏、アメリカでのライブを終え、来年海外公演が控えるこのツアーはこれまでに7億8000万ドルも稼いでおり、最終的には10億ドル(約1500億円)に達すると予想されている。さらにそのコンサートを収録した映画を作ってそこでも儲け、ファンとコネクトするのだから、非常に賢い。

しかも彼女は、自分の取り分がしっかりあるように、ちゃんと考えているのだ。そこが先ほど「さまざまな点で普通と違う」と述べた理由である。

まず、この映画には、メジャースタジオや配給会社がまるでかかわっていない。製作したのはスウィフトのツアープロダクション会社で、劇場上映については直接、世界最大のシネコンチェーンAMCと契約を結んでいる。

通常、映画の公開日は早々と発表されるのに対し、この映画について発表されたのは公開のわずか6週間前。それもスウィフトのインスタグラムという、実にカジュアルなやり方だった。

アメリカでは俳優のストライキが始まっていて、俳優がソーシャルメディアで映画の宣伝をすることも禁じられていたが(『バレンタインデー』『キャッツ』『アムステルダム』などハリウッド映画に出たスウィフトも全米映画俳優組合の会員だ)、この映画にはストライキの相手であるスタジオや配信会社がかかわっていないため、何の問題もない。

スタジオや配信会社が絡むなら、彼らはマーケティング予算を組んで広告や宣伝を打つだろうが、スウィフトはそれもしなかった。テレビスポットも一度も打っていない。お金をかけなくても、巨大なファンベースが大いに盛り上げてくれることを彼女は知っているのだ。

テイラー・スウィフト?THE ERAS TOUR
ディレクターのサム・レンチと肩を組むテイラー・スウィフト(写真:ロイター/アフロ)

平均より高いチケット販売が好調

また、チケットの値段もスウィフトが決めた。大人は19ドル89セント、子供は13ドル13セント。アメリカは都市や劇場によって映画のチケットの値段が違うが、これは全米平均より上で、田舎に住んでいるファンにとっては高いと感じられるだろう。それでも前売りの売り上げは絶好調で、公開初週末に訪れた観客の6割は、事前にチケットを購入していた。

ツアーのチケットの平均価格は253ドルで、その金額を出す用意があっても入手不可能だったのだから(転売サイトに2枚5500ドルで出ていたとの報道もある)、19ドル89セントで擬似体験ができるのならお手頃だ。