「客単価4356円」女店主が営むラーメン店の秘訣

ラーメン業界の「1000円の壁」に影響されない戦い方で営業するラーメン店も出てきています。「住所非公開・完全予約制」のラーメン店「純麦」店主の矢嶋純さんに話を聞きました(筆者撮影)

ラーメン業界の「1000円の壁」問題。お店側もお客側もラーメン1杯1000円は高いと感じるという心理的な問題だ。

以前から言われてきた問題だが、このところの原材料の高騰や水道光熱費の値上げの問題からいよいよ「1000円の壁」による閉店や倒産のニュースが多くなってきた。東京商工リサーチの発表によると、2023年1~8月のラーメン店の倒産(負債1000万円以上)が28件(前年同期比250.0%増)に達し、前年同期の3.5倍と大幅に増えている。

その中で「1000円の壁」に影響されない戦い方で営業するお店も出てきている。

「完全予約制」、住宅街でひっそりと営業する「純麦」

横須賀線・西大井駅から徒歩数分。品川区のとある住宅街で、ひっそりと営業するお店がある。「純麦」だ。2023年4月にオープンしたお店だが、なんと「住所非公開・完全予約制」である。

店主の矢嶋純さんは名店「麺処 ほん田」で修業ののち、ミシュランガイド東京のビブグルマンにも選ばれた人気店「Homemade Ramen 麦苗」の女将として有名になった女性ラーメン職人。そんな有名ラーメン店主が開いた今までにない形のお店として話題になっている。

事前に予約をしておき、指定の日時に店に行く。メニューは「純麦御膳」の1つのみだ。値段は4356円(税込み)。

(筆者撮影)

まずは前菜だ。この日はゴマカンパチ、コハダ、無農薬ケール、ラーメンのダシの茶碗蒸し、筋子とクリームチーズが大きな皿にきれいに並ぶ。主役のラーメンが肉、油、炭水化物がメインなので、前菜は野菜と魚中心のラインナップになっている。

(筆者撮影)

前菜を食べている間に矢嶋さんがゆったりとラーメンを作る。自家製麺をひと玉ずつ丁寧に手もみしゆで上げる。

(筆者撮影)
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出汁の分厚い清湯スープにまろやかな醤油ダレが合わさり、太めの手打ち麺がスープをよく持ち上げる。大ぶりのチャーシューとワンタンはもはやご馳走だ。

ぜいたくなご飯やデザートをゆったりと楽しむ

(筆者撮影)

ご飯は鍋炊きでとても艶やか。上にぜいたくに牛肉が載る。ラーメンのスープと共に楽しむととても美味しい。

(筆者撮影)

食事の後にはデザートとしてかき氷が出てきた。イチジクのシロップがぜいたくにかかった一品だ。ゆったりと1時間かけて純麦御膳を楽しんだ。

人気店出身の矢嶋さんが、なぜ「住所非公開・完全予約制」のお店を作ったのか。

「閑静な住宅街の中にお店を作るということで、店の前に行列を作ることは難しいだろうなと思いました。そうなると“記帳制”にするか“予約制”にするしかないのですが、記帳制の場合は待っていただく間に周りに時間をつぶす場所があることが条件になってきます。

ここは駅から遠いですし住宅街なので、記帳制は難しく、結果、予約制にするしかなかったという事情があります」(矢嶋さん)

過去の経験から「コースにする」アイデアが湧いた

予約制とはいえラーメンだけでやっていく場合は1日何十杯分も予約を取らなければならない。ラーメンだけだと単価を上げるにも限界があり、全体の売り上げのことを考えると杯数を稼がなければならないからだ。

ここで矢嶋さんが思い出したのが、以前やっていた「雲のきれま」というお店での経験だ。このお店ではラーメンとかき氷を提供していたのだが、2品ともレギュラーサイズで注文するお客さんが多く、 しっかりとした客単価で営業することができていた。これを応用し、前菜やご飯、デザートも含めたコースにしたらいいのではないかというアイデアが湧いてきた。