しかし、この「何もせずにぼーっとする」という時間は最高のリラックス法のようで、実は「疲れを取る」という点から考えるとあまりおすすめできません。というのも、ぼーっとしている時間、体はエネルギーを使わずに済みますが、脳は休まらない状況に陥りやすいからです。
最近の研究では、何もせずぼーっとしている状態のときは、デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network=DMN)という神経回路が活発化し、むしろ脳が疲れやすくなると考えられています。
DMNは自動車でいうアイドリングにたとえられていて、完全にエンジンが切れているわけではなくいつでも動き出す準備ができている状態。エンジンはかかったままなので、DMNが活性化しているときは、脳の60~80%のエネルギーが使用されているともいわれています。
DMNが活性化していると、一切稼働していないときよりも脳が迅速に反応できるため、危機管理や新しいアイデアを生み出すのには効果的だと考えられています。
また、DMNは体のリラックスや記憶の整理にも効果があるため、必ずしも悪いものとはいえません。しかし、その分脳のエネルギーは使われているので、「体は休まっているけれど脳の疲れは取れない」という状態に陥りやすいのです。
みなさんも、休日に何もせずゴロゴロと過ごしていたのに、何となく疲れが取れた感覚がしない、という経験はありませんか? これは何もせずにいることでDMNが活性化し、脳が疲労して疲れも取れない、という現象が起こっていると考えられます。
また、DMNが活性化していると、さまざまなアイデアが入ってくる反面、余計な情報が生み出されるリスクもあります。何もしないでいると、どうでもいいことを考えてしまったり、不安が強まったりすることもあるでしょう。これもまさにDMNの弊害といえます。
特に嫌なことが起こった後やストレスがたまっているときには、DMNによってマイナスの思考が強まる可能性が高くなります。そんなときは、ぼーっとするよりも何かに集中する時間を確保するようにしましょう。
そのため私も精神科の診察のときには、うつ病で休職が必要な人にも家でぼーっとしたりゴロゴロしたりするのではなく、空き時間は散歩や軽い作業など何か集中できることに充てるよう指導しています。
DMNは悪者ではないのでゼロにする必要はありません。ただ、知らないうちに疲れをためてしまわないよう、今は何かに集中するとき、今は体を休めてあげるとき、など心と体の休息のタイミングを意識的に切り替えられるようになりましょう。