しかし、日本は「禁止」の文字を最後まで入れませんでした。「法的に禁止」→「損害賠償の訴訟が増える」という流れが予想されるため及び腰になった。日本は「人」より「企業」を優先したのです。
ジェンダー問題しかり、最低賃金しかり、ハラスメントしかり……。どれもこれも「人の尊厳」という、ごく当たり前に守られるべき問題なのに、正面から向き合おうとしないのが、「僕たちの世界です」。
最後の体育会系世代の40代は嘆きます。上にも下にも気を遣わなきゃならない、と。世の中ハラスメントが多すぎ、ただでさえキャリアが弱い自分は若い世代への対応が難しいのに、と嘆く人もいます。たしかに気を遣うのは疲れるかもしれません。
でも、「気遣う」とは相手を尊重すること。相手を「人」として見ていること。それはパワハラの加害者や傍観者に欠けている、極めて大切な心の力です。
ですから「上にも下にも気を遣わなきゃならない──という絶望」は、ある意味において職場の希望なのです。その希望がある限り、みなさんがパワハラの加害者になることはありません。上司に嫌われる勇気があれば、傍観者になることもありません。
スタンフォード大学で行われた心理実験では、人が疑いもなく「自分は相手より上」と考えたとき、人間の残虐な部分が表出するという結果が出ました。過剰なプレッシャー、人間関係の悪さ、長時間労働などが、パワハラの引き金になることだってあります。そのリスクを最大限に下げるのが、「上にも下にも気を遣わなきゃならない」という絶望です。
ただし、気遣いは疲れるし、ときに過剰な気遣いが人間関係を悪くすることもあります。なので、「気遣い」を「目配り」にしてください。そこに心はいりません。
そして、もしパワハラらしき行為が見えたら、「あの……若い社員の間でパワハラじゃないかって噂が……」と“上”に警告し、「我慢しないで相談センターに相談したほうがいい」と“下”にアドバイスしてください。「上にも下にも気を遣わなきゃならない」という絶望は、「上からも下からも頼られる人」にあなたを変えるのです。
そして、もしあなたがパワハラにあったら、逃げてください。
前述のユウキさんは異動願いを出し、出世はなくなりました。今は地方の小さな支店の副支店長です。上司は年下です。しかし、幸いなことに彼は今の生活に100%満足はしてないけど、7割は楽しめていると話します。
「僕は逃げた。でも、逃げる勇気を最後に持てたことだけよかったと思っています。逃げたことで少しだけ強くなれたように思います」
ユウキさんはつじつま合わせに成功していました。パワハラにより命の危機にさらされる人たちは多いので、彼が今、こうやって元気にいられて本当によかったと心から思います。
もう一度繰り返します。もしあなたがパワハラにあったら、絶対に逃げてください。パワハラをするような愚かな上司のせいで、人生壊されてたまるもんか。たかが「仕事」なのですから。