「パワハラに遭いやすい」40代男性に見られる特徴

部下がハラスメントされるくらいならと、必死で正気を保とうと努力しましたけど、もう無理でした。あんなふうに部下の前で罵倒され続けたら、部下を指導することもできません。だから、部下の後始末を自分でこっそりやったりしてね。そうしているうちに上司の前に行くと、震えが出るようになってしまったんです。

おそらく私の変化に周りも気づいたのでしょう。同僚から、『お互いうまくやろうぜ』と言われてしまった。ヤツは励ましたつもりだったのかもしれません。でも、ああ、やっぱり自分がダメなんだと、自分が嫌になりました。『もう、無理。このままだと潰される』と思って、異動願を出しました。

管理職が自ら異動を願い出るということは、昇進拒否です。悔しいけど、そうするしかなかった。とにかくあのときは限界でした」

ユウキさん(仮名)は厳しい就職戦線を乗り越え大手銀行に就職。封建的な空気が残るその職場で、最後の最後まで耐えました。同期にも、先輩にも、後輩にも、会社にも相談しませんでした。「そんなことをしても無駄。立場が悪くなるだけ」と考えた。いや、そう思わせる空気を職場で感じたのです。

お互いうまくやろうぜ──。同僚は一体、どういう意味でこの一言をかけたのでしょうか?

「おまえも大変そうだけど、オレたちも大変なんだよ」と、自分たちも同じようにパワハラを受けていると言いたかったのでしょうか? あるいは、「おまえのやり方にも問題があるから、もう少しちゃんとやれよ」と、暗に彼にも問題がある、と言いたかったのでしょうか?

真相はわかりません。しかし、ひとつだけ確かなのは、“傍観者”である同僚もまた、「パワハラに結果的に手を貸している」という、歴然たる事実です。

日本特有の「いじめ構造」がある

実は傍観者がパワハラを加速させる構造は、日本特有のものと考えられています。「子どもの世界は大人世界の縮図」と言われますが、1980年ごろから日本も含め世界の国々で、「子どものいじめ」に関する研究が蓄積されました。その中で、日本には欧米とは異なる独特の「いじめの構造」があることがわかりました。

欧米のいじめでは、「強い者が弱い者を攻撃する二層構造」が多いのに対し、日本では「いじめる人、いじめられる人、はやし立てる人、無関心な傍観者」という4種類の人で構成される「四層構造」がほとんど。四層構造では強者からの攻撃に加え、観衆や傍観者からの無視や仲間はずれといった、集団内の人間関係からの除外を図るいじめが多発します。

いわば「集団による個の排除」です。その結果、被害者は孤立し、「自分が悪いのでは?」と自分を責める傾向が強まっていきます。

もちろんこれは、「子どものいじめ」研究の中で確認されたものですが、いつだって子ども社会は大人社会の縮図です。

「さわらぬ神にたたりなし」という言葉があるように、いじめを目撃しても「自分には関係ない」と放置したり、遠くから乾いた笑いを浮かべながら見守ったり。あるいは、「倫理委員会に報告したら、報復措置をとられるかもしれない」と考えたり。

そんな見て見ぬふりをする同僚たちの行動が、いじめられている人をさらに追い詰める。誰にも言えなくなる。逃げる気力も失せる。そして、傍観者は傍観者にさらに徹していくのです。

2020年に「パワハラ防止法」が施行

日本では、やっと、本当にやっと2020年6月1日より改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。パワハラ防止法では、具体的な防止措置を企業に義務化し、厚生労働大臣が必要と認めた場合、企業に対して助言や指導、勧告が行われるようになりました。

しかし、罰則の規定はなし。国際労働機関(ILO)の「働く場での暴力やハラスメント(嫌がらせ)を撤廃するための条約」ではハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」などと定義し、それらを「法的に禁止する」と明記しています。