【7】短く言い切る
長々とした説教はしないことを心がけているとのことで、彼の挨拶やスピーチは基本、短く、伝わりやすいのが特徴です。
「チーム全体のミーティングなんかでは失敗してしまうぶん、選手と個別に対話する際には事前にストーリーを組み立て、短い言葉を使うようにしています」(同)
ダラダラしゃべりではなく、瞬間的に相手の心に響く、歯切れのいい言葉を使うよう、心を配っているのです。
【8】「命令」でなく「問いかけ」
彼の話し方を観察していて、気づくのは、多くの言葉が「?」で終わっていること。監督にありがちな「命令」ではなく、「問いかけ」をしているのです。
映画の中でも、
「みんなが見たい選手で、皆が胴上げして、最後ガッツポーズしているのが一番いいかな。一応、そこに向かわせてもらっていい?」
「話してもらって交渉してもらっていい?」
「突然変なこと言ってすみません。もし、正尚(吉田)入れて外野手どういうメンバーになりますか? 清水コーチいかがですか?」
(以上、コーチらへの問いかけ)
「日韓戦、何か気になったり、違うことってある?」
(源田壮亮選手への問いかけ)
といったように、断定、命令ではなく、徹底して、相手に問い、考えさせていました。そうやって、相手が自ら答えを導き出し、自発的に動くよう仕向けていくのです。
「今の選手で誰かに教わってうまくなった人なんて僕はいないと思うんです。自分で考えて工夫して、自分でうまくなっているはずなんです。その手伝いを我々はするだけ」(NHKのインタビュー)
「問いかけ」から選手の「やる気」「思い」を引き出す
問いかけの中で、選手たちのやる気、思いを引き出し、
「本当に選手たちが自分たちで『勝ちたがってくれて、勝ち切った』という戦い」(フジテレビインタビュー)
に持っていったのです。
まさに、「?」の1文字が人を動かすというわけです。
【9】考えを押し付けない
日本の企業や組織のリーダー、上司たちの多くは、「自分の考えは正しく、部下や下の人は間違っている」という視点に立ちがちです。
一方で、栗山氏は、自分自身が「正解ではない」と言い切ります。
「僕は同時に若い人たちに、こうも言っています。「あなたのほうが正しいこと、世の中にいっぱいあります。それを捨てないでください」と。だって僕が子どもの時はバットを上から下に振り下ろせって教わったんですよ。
それが今はどうですか!? メジャーの強打者も、翔平も下から上にすくい上げるようにスイングして、ホームランをバンバンかっ飛ばしているんです。
「たった数十年で世の中は逆のこと言うの?」って感じです。だから常識なんてないんです。若い人たちと我々の間にあるのは意見や考え方の違いだけで、どっちが正しいか、正しくないかじゃないんですね。だから魂でぶつかって対話することが必要だと思います」(NHKのインタビュー)
間違った万能感にとらわれ、ついつい上から目線で「自分の正解」を押し付けがちな昭和型リーダーに、ぜひ聞かせたい新時代のリーダーシップの考え方です。
【10】とにかく「楽しませる」
日本では、「我慢して、忍耐してこそ、成長がある」「つらい思いをしなければ、成長はない」というマゾ志向が非常に根強いところがあります。
仕事、スポーツでも、いまだ、そういった根性論的な考え方をしている人は少なくないわけですが、「プレーを楽しむチーム」のほうが、じつは成果を出しやすいのです。
【WBC栗山英樹監督に学ぶ!「人を動かす"伝え方"」10の魔法】
【1】圧倒的なコミュニケーションファースト
【2】徹底的にフラットな目線
【3】「心理的安全性の高いチーム」を作る
【4】風通しがよく、活発なコミュニケーション
【5】「ツメ」よりも「ホメ」優先
【6】ひたすらに謙虚
【7】短く言い切る
【8】「命令」でなく「問いかけ」
【9】考えを押し付けない
【10】とにかく「楽しませる」
「伝え方」こそが「組織」「チーム」を変える原動力
栗山監督はまさに天才的な「伝え方マジック」で、野球の喜び、楽しさを一人一人に思い出させました。
その結果、「野球ってこんなに楽しかった」(岡本和真選手)、「本当に最高のチーム」「みんなのことが大好き」(ダルビッシュ)といった言葉が出てくるほどまでの高揚感を、選手たちが感じるまでになったのです。
まさに、「伝え方」こそが組織を、チームを変える原動力。
皆さんも「世界最高の伝え方」の魔法で、人を、自分を、変えていきませんか。