その真意をこう語っています。
日本では、上司や目上が命令し、下の人間がそれに疑うことなく従うことを良しとする文化が根強いわけですが、こうしたタテ志向は下の人たちの当事者意識を削ぎ、組織が保守化するというデメリットがあります。
チームの全員が、リーダーとしての意識と責任感を持ち、自発的に動くよう、意識改革をしたわけです。
こうした横のつながりが、「それぞれが、言いたいことを言い、それが受け入れられる」という安心感、いわゆる「心理的安全性」につながっていきました。
そんな中で、上下の関係にとらわれず、お互いが不安や悩みを相談し合える関係性、質問をし合う、聞き合う文化が生まれていったのです。
たとえば、WBCの軌跡を描いた映画『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』の中では、村上宗隆選手が、ダルビッシュ選手に、「僕(打席がベースから)離れてるんですけど、気になりますか」などと質問しているシーンがありました。
栗山監督は、ダルビッシュに対し、「みんなに教えてあげてくれる?」と声掛けをし、ダルビッシュはその言葉通りに、チームの交差点として役割を立派に果たしていました。
ダルビッシュ自身、もともと「年功序列的で硬直的、根性主義的な日本の球界」に異を唱えており、若手とも友人のように気さくに接することに徹したのです。
ロッテの佐々木朗希投手はこんなコメントをしていましたが、風通しがよく、活発なコミュニケーションが、チームの一体感を作り上げたのは間違いないでしょう。
昭和型のスポーツチームは根性重視、ツメ優先の叱責カルチャーが強い印象がありますが、令和の常勝チームはお互いへのリスペクト、「ホメ」優先がデフォルトです。
「選手を信頼し、勝負をゆだねる」が基本スタンスで、「人を傷つけるとか、恥をさらすようなことは言わない」がダルビッシュの栗山評。
そうした空気感の中で、「あっ、今のめっちゃいい。今のたぶん一番良かった」「素晴らしい」と、ほめ合い、励まし合う文化が生まれていったのです。
栗山氏は高い実績を上げながら、常に「謙虚であれ」と自分を戒めている節がうかがえます。たとえば、
「(コーチに対し)本当にすみません。お待たせしてすみません」「(投手に対し)ごめんな、流れが悪いところで投げさせて」など、プライドにこだわることなく、謝ることを厭いません。
映画には、「スライダーとかってさ、必要なのは基本的に握り?」とダルビッシュに尋ねるシーンが映っていました。
何かわからないことがあれば、知ってるふりではなく、すぐに誰かに素直に聞く。常に「学び続ける姿勢」を貫き通していました。