「放送離れ」でTVer利用者が増えている驚きの現実

ネットにつながったテレビのサービスは2015年のNetflix上陸をきっかけに日本でもさまざまなサービスが登場してきた。最も利用者数が多いのは無料のYouTubeだが、有料定額サービスが脚光を浴び、Amazon Prime Video、Disney+などのアメリカ勢に、U-NEXTなどの日本勢も奮戦してきた。

日本勢は日本テレビのhulu、TBS・テレビ東京・WOWOWの共同出資によるParavi、フジテレビのFOD、テレビ朝日のTELASAが主なプレイヤーとみられてきたが、2月にParaviのU-NEXTへの統合が発表され状況が変わってきた。

また昨年、Netflixが廉価版の広告付きプランを強引にローンチし物議を醸したように、VODで有料定額型が見直され始めている。最近、「CTV市場」という言葉が広告業界でバズワード化しているが、それは有料のサービスではなく、広告付きサービスのほうについての話題であることが多い。広告業界にとっての新しい商品となるからだ。

つまりここへ来て、映像配信サービスのテーマが無料のほうにシフトしつつあるのだ。

広告市場としての映像配信サービス

記事(ドコモのdTV改めLemino「テレビの次」になれるか)でも書いたが、NTTドコモの新サービスLeminoも、有料と無料のどちらかを選べるうえに、「将来的には無料領域を大きくしたい」と担当者は述べていた。元々あったABEMAも有料プランはあるが基本は無料の広告モデル。

こうしたさまざまな映像配信サービスがテレビで主に見られるようになると、広告市場として大きく成長するかもしれない。テレビ局もTVerをテレビで視聴してもらって、その成長を軸に巻き返したいところだろう。

電通が2月に発表した「日本の広告費2022」によると、インターネット広告費における「テレビメディアデジタル」分類は2022年(暦年)で358億円だった。このうちかなりがTVerだとみていい。まだ地上波テレビ広告費全体の1兆6768億円の2%程度にすぎないが、前年比40.9%増と伸び率は驚異的だ。乱暴な試算だが、毎年同じ伸び率で成長したとすると2030年には5561億円にもなる。これから先の放送収入の落ち込みを補う可能性はある。

実際、アメリカのテレビ業界は収入の5分の1以上をCTV広告収入で得ているとの資料もある。いつもアメリカから5年遅れるといわれる日本のテレビ業界も、同じように再成長してもおかしくはない。

ただ、アメリカのCTV広告市場の伸びを支えているのはFASTだといわれている。Free Ad-supported Streaming TVの略で、無料広告型のストリーミングテレビ。VODとは違って、「これを見たい」とユーザーが選んで見るのではなく、たくさんのチャンネルから「ドラマ」とか「スポーツ」「ニュース」などと選ぶと次々に番組が流れてくるサービスだ。

日本でいうとケーブルテレビやスカパーの多チャンネルサービスが近い。ただ、それが広告がつくことで無料で視聴できるのが違う。

実は、このFASTサービスが「テレビの次のテレビ」ではないかと私は考えている。前述のLeminoの記事でも書いたが、今VODを使っていると、次にどれを見るかで悩んで結局見ないことが多い。「選ぶ」というのは億劫な作業なのだ。だからといって今の「放送」のようになぜか7時から9時には似たような出演者の同じようなバラエティだらけなスタイルには戻れない。

FASTなら、今はニュースが見たいと思うならニュースチャンネルに合わせると延々ニュースばかり流れる。スポーツが好きならスポーツチャンネルを選べばいい。好みの分野、その時見たい分野だけ指定して、つけっぱなし流しっぱなしで、時々本当に興味ある部分だけ見ればいい。スマホをいじりながらの気楽な視聴にもいい。それならCMだって全然我慢できる。
FASTとはそういう、さほど熱心に見たいわけではないがなんとなくつけておきたい自堕落なテレビの見方にぴったりなのだ。そしてそもそも、これまでテレビ放送が栄えてきたのは、そんな自堕落な見られ方に向いていたからではないか。だからこそ、CMを自然に見てもらえた。FASTは同じようなCM接触を再現できる。