海外では動画配信メディアによる好カード争奪戦がより激しさを増している。Googleのユーチューブが、米プロフットボールリーグ・NFLのサンデー・チケット(日曜午後のほぼ全試合を視聴できる定額制パッケージ)の権利を獲得したことが報じられ、その額は7年間契約で140億ドル(約1兆8200億円)にも上る。同放送権を従来保持していた有料テレビ局DirecTVからユーチューブへとサンデー・チケットの本拠が移り変わることは、最先端を行くアメリカのメディア業界にとってもエポックメイキングなことなのである。
世界最大手の市場調査機関デロイトグループは「スポーツ配信はストリーミング戦争の次の主戦場になる」と指摘する。デロイトによれば、2023年にストリーミング配信事業者がメジャースポーツの独占配信権取得に費やす投資額は60億ドル(約7800億円)以上を見込む。
なかでも「米AmazonのNFL」「インドViacomのインディアン・プレミアリーグ(IPL、プロクリケット)」「北欧Viaplayの英プレミアリーグ」「米Apple TV+のメジャーリーグサッカー(MLS)」「DAZNのイタリアのセリエAとスペインのラ・リーガ」の5つは、高額投資が予想される注目案件という。スポーツコンテンツの取得に以前から積極的なAmazonやスポーツ専門のDAZNだけでなく、ViacomやApple TV+も手を出し、そしてローカルメディアのViaplayも並ぶ顔ぶれからは、動画配信メディアがスポーツのライブ配信を重要視し始めたことがわかる。
一方、数年前まではどの動画配信メディアもスポーツ独占配信権の取得に慎重だったのも事実である。Netflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドス氏が以前、「メジャースポーツの配信権取得は利益に繋がりにくい」と話していたように、リクープ問題はまさに慎重な見解を示していた理由の一つにあった。
そんなNetflixも今は興味を示している。フランスやイギリスを含むヨーロッパ諸国におけるATPテニスツアーのストリーミング配信権を獲得するために入札を行い、その後候補からは外れたと報じられているが、スポーツのライブ配信に手を広げようとしている。
では、なぜ状況が変わったのかというと、動画配信メディアの加入者の伸びに要因がある。動画配信メディアは急成長してきたが、加入者の増加率は新型コロナウイルスの世界的大流行が起こった2020~2021年をピークに、2022年以降鈍化し始めている。これによって投資コンテンツを今まで以上に厳しく見きわめる必要が出てきた。
多くの動画配信メディアはこれまでドラマシリーズの独占配信を売りにし、差別化戦略として破格の制作費をかけることも惜しまなかったが、ドラマは新規加入増や解約防止に繋がるようなリターンの見通しが立てにくいというデメリットもあった。
これに対して、スポーツは固定客がある程度予想でき、やり方によってはファン層の裾野も広げやすい。それゆえに、同じ100億円を投資するなら、ドラマよりもスポーツのほうが費用対効果が高いという見方が浮上してきたというわけだ。リスクを分散して、ドラマだけではなくスポーツコンテンツにも投資していく考え方が強まっている。
またここにきてNetflixやDisney+が広告付きプランを開始し、無料ストリーミングモデルのFASTチャンネルが欧米で広がるなど、動画配信の事業モデルそのものも多様化している。動画配信がニッチからマスへと、成長スパイラルに入っていることを意味するものでもある。総合編成を図ってコンテンツジャンルの多様化が進み、まずはスポーツというマス向けの強力コンテンツに目が向けられたと考えることができる。