FIFAワールドカップ2022のライブ配信は日本のABEMAをはじめ、世界各地で成功体験を作り出した。ライブ配信そのものがネクストトレンドとして注目されているなかで、どんなコンテンツが起爆剤となり得るか。先行する海外プラットフォームの動きから読み解く。
ABEMAの「FIFAワールドカップカタール2022」(以下、サッカーワールドカップと記す)のライブ配信は、元日本代表MF本田圭佑選手の解説で大きな話題を集め、過去最高記録の3409万WAU(週間アクティブユーザー数)をたたき出した。推定100億円と言われる過去最高額の投資に対し、ABEMAを運営するサイバーエージェントは2023年の1月25日の決算発表で「効果はあった」と明言した。
サッカーワールドカップのライブ配信は世界各地でも成功事例を作り出した。たとえばイギリスでは、公共放送BBCが自社運営する「BBC iPlayer」および「BBC Sport Online」がイングランド対イラン戦の試合をライブ配信し、BBCのライブ配信史上過去最高の再生数800万回の記録を作った。
大型ライブストリームイベントとして盛り上げた背景も興味深い。イギリス政府が2022年4月にBBCの受信料制度見直し案を表明したことにより、BBCは今、収入減を補うために「デジタルファースト」戦略を強化することに必死だ。従来の公共放送としての顔だけでなく、市場環境の変化を受け入れたメディアとしての道を探っているところである。サッカーワールドカップのライブ配信で結果を出すことはBBCにとってこれまで以上に意味があり、何がなんでも成功させるつもりでいたはずだ。
配信メディアで結果を出すのに本気なのは、BBCに限ったことではない。イギリス民放最大手のITVも2022年12月8日から新しく始めた無料ストリーミングのFASTチャンネル「ITVX」で、サッカーワールドカップの配信効果があったことを強調した。見逃しサービス「ITV Hub」からFASTチャンネルにバージョンアップしたITVXの開始後1カ月間のストリーミング時間は前年同時期比較で55%増加し、オンラインユーザー数も同じ比較で65%も増えたことを明かしている。これを受けて、ITVのキャロリン・マッコールCEOは「多くの新しい視聴者がITVXを楽しんでもらっていることを証明しました。サッカーワールドカップは、その牽引役となった」とコメントを発表した。
サッカーワールドカップのライブ配信がライトユーザーから関心を集めやすい有効なコンテンツであることは想定内だったかもしれないが、動画配信メディアを利用するきっかけを作ることの重要さを実感できるものになったはずだ。
資金力のある配信メディアがスポーツのライブ配信に本格的に乗り出したことで、ジャンルも広がりつつある。日本ではAmazonプライム・ビデオが2022年4月に村田諒太×ゲンナジー・ゴロフキンのWBAスーパー・IBF世界ミドル級王座統一戦を皮切りに、同年6月には井上尚弥×ノニト・ドネアのWBA・IBF・WBC世界バンタム級王座統一戦など、ボクシング世界チャンピオン同士の王座統一戦の独占ライブを連打している。
2023年4月8日には那須川天心選手のデビュー戦らを扱ったボクシングライブ第4弾を放送した。またAmazonは「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC(WBC)」における野球日本代表「侍ジャパン」全試合のライブ配信も行ったところだ。スポーツライブがAmazonプライム・ビデオの重要コンテンツになりつつあることを物語る。Amazonプライム・ビデオのジャパンカントリーマネージャーである児玉隆志氏が「新規顧客獲得の戦略的柱に、スポーツのライブ配信がある」と話す通り、その位置づけは明確である。