NetflixやAmazon プライム・ビデオが台頭する動画配信サービス業界。しかし少し前まで、外資勢を差し置いて圧倒的なシェアを誇っていたサービスがある。NTTドコモとエイベックスが共同出資で設立し、2015年にサービスを開始した「dTV(ディーティービー)」だ。
運営元のドコモは3月上旬、dTVの大規模リニューアルに踏み切ると発表した。4月12日からサービス名を「Lemino(レミノ)」に変更し、月額550円の有料プランのみだったサービス形態を、広告付きの無料配信と月額990円の有料プランの2本柱へと移行する。
注目度の高いスポーツ中継や音楽ライブ等を独占生配信するほか、独占配信作品の最新エピソードやオリジナル作品の一部を広告付きで無料配信する予定だ。感想をシェアしたり、フォローしたユーザーの推奨コンテンツを表示したりする機能も追加し、よりユーザーが関心のあるコンテンツを見つけやすい仕様に刷新する。
「安いだけではなかなか支持を得られなくなった。独占配信コンテンツが不足していただけでなく、見たい作品にたどり着きづらいといった機能面での課題もあった」。ドコモの小林智執行役員は、リニューアルを決断した背景についてそう話す。
実際、動画配信サービス市場におけるdTVのシェアは、この数年で急速に低下していた。調査会社・GEM Partnersによれば、2016年時点の国内シェアでは24.1%と圧倒的1位を誇っていたdTVだが、2022年には4.2%にまで落としている。同期間で一気にシェアを広げたNetflixと、くっきり明暗が分かれた形だ。
dTV運営会社の2022年3月期決算は、売上高112億円(前期比6.7%減)、営業利益4.6億円(同70.1%減)と、大幅な減収減益に落ち込んだ。2年前から、売上高は約2割、営業利益は8割強も減少している。厳しい経営環境を踏まえ、2023年1月には、エイベックスが7割、ドコモが3割出資していた合弁関係を解消。ドコモがエイベックスの保有株式をすべて買い取った。
赤字目前で子会社化したドコモからすれば、リニューアルは大勝負をかけた仕切り直しとなる。ただ、今回導入する「広告付き無料配信+有料プラン」という組み合わせ技では、先行する強力なライバルが存在する。サイバーエージェントの子会社が運営し、W杯でも注目を集めた「ABEMA(アベマ)」だ。
現状、国内における広告付き無料配信のサービスモデルと言えば、ABEMAのほか、在京在阪の民放10社が運営する「TVer(ティーバー)」が広く知られている。
各局がテレビ放映した番組をそのまま配信できるTVerに対し、自らコンテンツを制作・調達する必要があるABEMAは、2016年の開局以来いまだ黒字化が見えていない。3月中旬、自身のブログで2026年に社長を退任すると表明したサイバーの藤田晋社長も、そのブログ上でABEMAを「自分の最後の大仕事」だと記している。
ABEMAと同様にコンテンツを独自で用意しなければならないドコモにとって、今回の転換は、以前に増して収益化のハードルを上げているようにも映る。なぜ自ら茨の道を行くような選択を下したのか。
ドコモの戦略を理解するうえでカギとなるのが、周辺ビジネスの存在だ。
「広告付き無料配信+有料プラン」のモデルを支える収益源として、すぐに思い浮かぶのは広告収入や有料会員収入だろう。