しかしABEMAの場合、売上高の50%近くを「周辺事業」が占めており、月額課金や広告による収入を大きく上回る。周辺事業の牽引役は、ABEMAの競輪・オートレースチャンネルと連動した、「WINTICKET」というインターネット投票サービスだ。
こうした周辺ビジネスでの収益拡大を目指す動きは、有料の動画配信サービスでも見られる。一例が、2022年12月にサービスを開始した月額550円の「DMM TV」だ。DMMは電子書籍やオンラインゲーム、英会話サービスなど数多くの周辺事業を展開しており、DMM TVの会員となることでそれらの特典も利用できるようになっている。
DMM.comの村中悠介COO(最高執行責任者)は「550円でやっても収益性は乏しい。あくまでDMMの他のサービスを利用してもらうための入り口だ」と話す。
ドコモにとっても、無料配信で利用のハードルを下げたLeminoを呼び水に、周辺ビジネスでの収益拡大を図りたいというのが正直なところだろう。ドコモの小林執行役員は「(本業である)携帯通信サービスなどの入り口として、多くの人に使ってほしい」と期待を寄せる。
「ドコモ経済圏」とも呼ばれるdポイントクラブの会員は9324万人(2022年12月末時点)。この会員基盤を軸に、金融やEコマース、雑誌、電子書籍サービスなどさまざまなサービスを展開している。周辺ビジネスのラインナップで言えば、すでにABEMAより優位な位置につけていると言える。
ドコモ経済圏を活性化させる起爆剤とするには、動画配信サービス単体がたとえ赤字でも、多数のユーザーをまずはLeminoに誘引し、周辺サービスの利用につなげる仕掛け作りが重要となる。「スポーツや音楽ライブのように瞬間的にアツくなるような、爆発力のあるコンテンツを配信することで、ブームを作っていきたい」(小林執行役員)。
ここで参考になるのが、ABEMAによるW杯の無料配信だ。巨費を投じて全試合を生中継したABEMAの手法について、小林執行役員は「サービスの認知度を上げただけでなく、追っかけ再生のようなテレビにはできないビッグコンテンツの新たな使い方を示した」と一目置く。将来的にはW杯の放映権をめぐり、ABEMAと競合する場面が出てくるかもしれない。
Leminoに「メディア」として一定の発信力を持たせるため、ドコモは当面の目標として1000~2000万MAU(1カ月あたりの利用者数)の早期達成を掲げる。現時点でABEMAはWAU(1週間あたりの利用者数)で1000万を超えており(W杯配信時のWAUは3409万)、ドコモの目標はそれほど高いわけではない。
ただ、ABEMAに限らず、いまだ数多くのサービスが乱立する動画配信市場でどれだけの存在感を示せるかは未知数だ。3月には楽天が無料動画配信サービス「Rチャンネル」のスマホアプリ提供開始を発表するなど、巨大な経済圏を築くライバルの動きも無視できない。
かつて圧倒的な国内シェアで隆盛を極めた動画配信サービスは、ドコモの完全傘下となって復活を果たせるか。その成否は、ドコモ経済圏全体の行方に波及する可能性も秘めている。